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剣初心者うさみ 73

 師範代の呼び出しを受けてから二度目の休日。

 バルディはミーナと道場の外で会っていた。


 といっても色気のある話ではない。


「お嬢様が街を見て歩きたいと仰せですの」


 ミーナが言うお嬢様というのは剣の街の内政の多くを占めるヤッテ家の令嬢である。

 特級の重要人物だ。

 剣の街というだけあって武断派が多く、剣に頼らず地位を確立しているヤッテ家は特異な存在であると同時に、羨望と嫉妬を集め、さらには内心見下されている。

強いやつが偉いという価値観が主流であるため、そうではないヤッテ家は敵も多いのである。

 バルディの家のような商家などであればまた見方が変わってくるのだが。


 さておき。

 そんなお嬢様が街を歩くとなれば、諸々の厄介事が容易に想像できる。

 なのでバルディは思わず言った。


「案内しろというならお断りします」

「ああ、違うですの。そこは心配いらないですの」


 よかった、無理難題を押し付けてくる偉い人はいなかったのだ。

 バルディが胸をなでおろしつつ確認したところ。


 つまりは下見の下見なのだという。


 今回の主目的は甘味。

 お嬢様は普段食べているものとは違う甘味を求めているらしい。

 原因は使用人が持っていた情報誌。下町の隠れた名店、みたいな記事を読んでしまったらしい。

 しかし、お嬢様の周囲に侍っている者たちも実際にそんなところに詳しいわけではない。使用人であるとしても、上流層の人間に変わりないのだ。


「そこで、我々道場派遣組に声がかかったですの」


 道場には上下様々な層の門下生がいる。

 こういった情報の収集にはもってこいだろうと。

 そして、情報を集めて上司に報告し、さらに上司が確認、選別して警備計画などを立て、それからお嬢様を案内する、とこのような手順となっているのだそうだ。


「わたくしたちは実際に店を回って、味を確認しつつ周辺地理を把握するですの。その後の報告はわたくしの仕事ですので、バルディには迷惑はかけないですの」


 つまりあくまで間接的な情報提供までで、厄介な責任は生じないということだ。

 バルディは甘味情報の紹介でヤッテ家に取り入ろうという野心はない。

 剣で身を立てていきたいのだ。それも少し雲行きが怪しくなりつつあるが。

 もともと、ある程度実力と経験を積んで、実家の警備を請け負えるようになればと思っていた。

 成り上がりに興味はないわけではないし全く夢にも思ってないというわけでもない。しかしそれなら剣で、というのは、まあ父が知れば甘えと断じるだろうけれども。


 とにかく良くも悪くも面倒がないのなら都合がいい。

 ミーナの依頼を承諾したバルディは、準備をして臨んだのである。


 準備とはすなわち、姉たちに相談することだ。

 詳しく話すのはまずいと判断し「女の子に紹介する甘味処を教えてくれ」とぼかして伝えたところ、異様に張り切って教えてくれたので万全といえよう。

 問題があるとすれば一日ですべて回れるか、すべての場所で甘味を食してはお腹がふくれてしまわないかというくらいである。

 その点においてもいくつか秘策を授けてくれたので頼れる姉たちであった。

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