剣初心者うさみ 69
「素振りをしていたら、突然手ごたえが変わったんです。何かがハマった気がして。それと同時に、一気に頭、いや、体全体に知らないものが一度に現れて、思わず」
木剣を取り落とした。
あの瞬間、バルディは急な変化に驚き、戸惑い、体が硬直したのである。
それだけのこと。
体調は若干寝不足気味だったが、大きな影響はない。たまにある範囲のことだ。
朝のことも顔を洗って切り替えられていた。
そしてその変化の後も、今までにない感覚に戸惑いつつも、その感覚に体を任せていた。
その正体を確かめるために。
そしてそれが、今まで積み上げてきたもののずっと先にあるものだと、確信した。
「これは、すごいものです。今ならあの時、剣術大会のゴウゲンにも……にも……? あれ?」
思い返しているうちに、興奮してきて早口になったバルディ。
要するに、突然剣の腕が上がったのだ。
おジョウさんのおかげで切り替えられたとはいえ、最近抱いていた劣等感。それを吹き飛ばして余りある力を手に入れたのである。
が、話すうちに自分の記憶の中の強敵との立ち合いを想像し。
そして届かないことに気づいた。
わずかな時間、全能感を覚えていたバルディだったが、自分でそれを否定することになったのだ。
フワフワしていた気分が叩き落され地面についた。
その瞬間師範代が口を開いた。
「自分で落ち着いてくれて助かるね。その変化について教える前に、もう一つ確認しておこう」
気分が高揚したり落としたり忙しいバルディだったが顔を上げ、改めて師範代に向き直る。
落ち切る前に引き留められ、強制的に仕切りなおされたような気がするのは、気のせいではないだろう。さすが師範代だ。
「なんでしょう」
「それが起きた時、なにかきっかけはなかったかな?」
「きっかけですか?」
バルディにあの変化が起きた時。
その素振りの際、確かに普段とは違う試みをした。
それは。
「……うさみの剣の振りを真似しました」
すぐ前に見た、うさみの動き。
顔を洗って落ち着いた時ふと思い出したその動き。気づけば見入っていたあの動き。
これをバルディなりに真似したのである。
ゆっくりだった動きはバルディの動きの速さに合わせて。
そしてその結果が今回の状況である。
優秀な魔法使いであると教えられたうさみを真似したことで、一瞬で力を手に入れたのだ。
と思った瞬間、その力がそれほどでもないことに気づいた。
少なくとも、剣術大会の時のゴウゲンには劣る。先輩方や師範代にももちろん劣る。
ということに気づいたのである、
そしていったん落ち着いて、思い浮かぶ疑問は一つ。
結局これは何だったのか、と。