剣初心者うさみ 68
「ッ!? なん……これ……!?」
その日。
いつもの基本修練である素振りの最中。
バルディは思わず木剣を取り落とした。
「どうした?」
「バルディ?」
地面に落ちた木剣の音が響き、注目を集める。
中でも、チャロンとミーナは即座に駆け寄ってきた。
「悪い、ちょっと待って」
しかし、バルディは二人を押し留め、すぐに木剣を拾い、もう一度振った。
「大丈夫ですの!?」
「今の、なんかすごいぞ」
心配するミーナと驚きの声をあげるチャロン。
二人を置いて、バルディは剣を握った手を見つめて。
先輩方もざわめき始めた。気にせず集中している者も幾人かいたが。
「はいはいそこまで。バルディ、修練後、話があるので来るように。さあみんな、素振りの続きだよ。一本一本を大事に!」
そこで師範代が手を叩いて注意を引き、場を引き締めた。
チャロンとミーナもしぶしぶ離れていく。といっても木剣を振るのは隣ではあるが。
その後は、バルディは努めて普段通りを装い、そしてそれはうまくいった。逆にチャロンとミーナの方が集中を乱しているようだった。
それがバルディを心配してのことだと思うと、申し訳ない気持ちになったが、しかしバルディは今回自身に起きたことの方が大きかった。
そして修練が終わると、すぐに師範代の下へ向かったのだった。
「なぜ呼び出されているかわかっているね?」
屈強な体におもちゃのような眼鏡をかけた師範代が口を開いた。
場所は道場の奥にある師範代の執務室。
鍵をかけられるし音も漏れないようになっているそうで、個人的な相談事や重要な話をする際など、師範代はこの部屋を使う。
「はい。剣を取り落とした、原因についてですよね?」
呼び出された理由。
それは、修練中に木剣を取り落としたこと、ではもちろんない。
それでお叱りを受けるならその場で受けている。
ではなにかといえば、その原因。
木剣を取り落とすほどバルディを動揺させたものについてである。
「そうだね。あのとき何が起きてああなったのか、君の言葉で聞かせてもらいたい。ああ、心配しなくてもいい。異常でもないし、間違ったことをしてもいない。このことで君を含めて誰かが叱られることもない。ただ確認したいだけだからね」
「わかりました」
不思議なほど入念に念を押され、バルディは少しだけ訝しく思ったが。
すぐに、言われるままに自分に起きたことを語り始めるのだった。