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剣初心者うさみ 67

 翌日。


 改めて考えると、本題だったはずのうさみのことが結局あまりわかっていないことに気が付いた。

 話があらぬ方向へすっ飛んで行った結果うやむやになってしまったからだ。

 考え込んでなかなか眠れないほどの大事件だった。

 しかし、うさみのことも、修練が手につかないほど気になっていたのだ。

 別の事案で上書きされたとはいえ、本人を見れば思い出す。


 今日もうさみは木剣をゆっくり動かしていた。

 門下生向けにまとめて購入することで割り引いてもらっている練習着を身に着け、髪は後頭部でまとめて獣のしっぽのように垂らしている。おそらくいつも通りおジョウさんとお揃いにしているだろう。


 これが、剣の街界隈で一番かもしれない魔法使い。


 そう思いながら見ると、なんだかいつもとは違うように見えなくもない。

 なんとなく、黒く、重い何かを纏っているような気がしてくる。


 そしてその動きは、遅い。虫が飛んできて留まってもおかしくなさそうだ。

 けれど振りぬいて、戻す仕草は滑らかで、時折何かを探るようにわずかに変化があるような、気のせいだろうか、わからない。わからない。剣が。振り下ろされる。剣が。戻される。わからない。剣。剣。剣。剣。剣。剣――。



「バルディ? 大丈夫ですの?」


 バルディは、頬をぺちぺちと叩かれて我に返った。

 うさみを眺めていてぼーっとしてしまっていたらしい。


「あ、ミーナ、チャロン、おはよう」

「おはようございますですの。声をかけても反応がなかったので、危うくチャロンが殴るところだったですの」

「無視はいけないぜ無視は」

「ああ、ごめん。ちょっと意識が飛んでた」

「……大丈夫ですの?」


 ミーナが珍しく表情を面に出している。

 心配げな顔で。

 下から覗き込むように。ミーナのほうがすこしだけ背が高いにもかかわらずそのように見えるということは、ように、ではなく実際に下から覗き込んで――顔が近い。


 普段はあまり表情を示さないが、端正な顔立ちであることは否定できないミーナである。まつげが長い。いつもはあたりすべて見ようとしているような大きな目が今は細められてバルディ一人に向けられていた。

 猫系の獣人族であるミーナが、球打ちで相対した際などに時折見せる目のかたち。

 じっと見つめられていて、その眼の中に自分が映っているのが見えた。


 バルディはなぜだか無性に恥ずかしくなり、顔が熱くなった。

 今までもこのくらい接近することはあったが、何ということもなかった。

 だが今回は、なぜか感情が動き、胸の中が激しく自己主張していた。


「大丈夫大丈夫。ちょっと顔洗ってくる」


 バルディは目をそらして逃げるようにその場を離れた。

 後ろでミーナとチャロンが顔を見合わせ、訝しんでいるのがわかった。

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