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剣初心者うさみ 62

「あ、ええと。それで、うさみの話ですよね」

「そうそう。気づいていると思うけど、うさねーさんは魔法使いなの。それも、少なくともあたしが知っている中で一番のね。といっても、あたしが知っている魔法使いはそれほど多くはないけれどね」

「一番ですか」


 剣の街で有名な魔法使いはほとんどが魔法剣士である。

 剣術大会で炎の剣だ、雷速の踏み込みだ、氷の刃を飛ばしただと派手さと見ごたえに貢献している人たちである。

 剣士としての腕と魔法の腕を両立するため、必要な修練の量は多くなる、逆に言えばそれぞれの練度は特化した者に劣る。


 しかしながら。

 耳にした程度の話だが、魔法を動きながら、それも剣による近接戦闘をしながら運用するのは非常に難度の高い技術であるらしい。

 詳細はわからないが、普通の魔法使いは長々と呪文を唱え、しかもその間は集中が必要なのだという。

 もちろん、熟練の剣士を相手にそんなすっとろいことをしていては近寄って切り捨てられるのがオチだ。

 要するに、剣術大会に出場し活躍する魔法剣士は魔法使いとしても相応の技量を持ち合わせているということである。


 おジョウさんの知る魔法使い像はバルディのそれと大きくかけ離れているわけではないはずだ。仮に齟齬があってもそれは下方向ではありえない。

 商家の三男より、道場の長女のおジョウさんの方が知る機会は多いはずである。


 その前提で。

 おジョウさんは、はっきりと断言した。

 一番であると。


 あのちっちゃいのがそれほどの魔法使いであるとは、一見して読み取ることはできない。

 同じ魔法使いであれば何か感じるところはあるのかもしれないが、バルディはそうではないのだ。


 ただわかるのは、うさみが見た目からは想像できない程度には多くの経験を積んでいることである。

 雑談中の物語りにしてもそうだし、バルディの怪我の処置についてもそうだ。一切の動揺を見せず、笑みまで見せて必要な処置からスキルの伝授まで行った。

 外見通りの年齢ではないとわかっていても、現在のバルディよりも小さい女の子がそのようにできるのは驚嘆に値する。

 そう思うことが既に視野が狭いということなのかもしれないが。


 少なくとも、見た目通りではないことはバルディも体験してきたことである。

 だが、それが雲の上の剣術大会で大暴れしている人たちよりも上だといわれるのは、少なからず衝撃を受けた。

 おジョウさんの言葉が間違っている可能性を考えるのは意味がない。これだけはっきり断言するのだから相応の根拠があるはずだ。ひいき目や勘違いがあったとしてもそう思わせるだけの何かはあるのだ。


 そもそも、おジョウさんより年上である、ということも見た目からは想像しにくいのだ。エルフという種族はそういう種族であると、バルディが今まで培ってきた常識では測り切れないのだと、そう考えるべきだろうか。


 だが。


「それほどの人が、なぜ道場の隅で?」

「それなのよ」


 剣の街という、魔法使い向けとはいいがたい環境とはいえ、上層に位置すると思われる実力者。

 そんな存在が、一道場の片隅で細々と剣を振っている。

 それだけ。

 というのはいかにも不可思議なことに思われた。


 能力がある者は相応の場所があるものだ。

 そうでなくとも、自然に人の目が集まるだろう。

 能力を発揮すれば目立つのだ。

 能力が欲しい者からは乞われ、疎む者からは責められる。

 商人でもそうだ。

 利益をもたらすものは喜ばれ、利害が一致しない有能な者は排除したくなる。


 公的な資金が入っている一距両疾流道場は一般にはそこそこ手堅い場所である。

 だがその片隅で目立たない立場というのは。

 推定剣の街で一番の魔法使いがいるべき場所だろうか。

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