使い魔?うさみのご主人様 36
うさみを乗せた小竜が駆けだすと、他の使い魔とメルエールが散開したので竜はぐるりとにらんで獲物を定め。
「え、こっち!? んぎゃああああ」
メルエールはおよそ貴族子女にふさわしくない悲鳴を上げながら逃げようとするも、奮戦むなしく距離を詰められ。
「はいたーっち。メルエール様もゾンビー」
「あいた」
竜の背中のうさみに頭をぺしんと叩かれる。
「さあつぎはだーれ? 虎君行こうか?」
うさみと竜は次の獲物を選んで進攻を再開。
メルエールはついていけないのでどうにか一体でも捕まえるためにまわりこむ。
バラバラに逃げてはいるが、範囲は制限されている。
うさみたちが盛大に囮になっているため、障害物としてある樹木などに隠れながら近づけばばなんとか動物たちに触ることはできる。かもしれない。
メルエールはそうはいっても動物や魔物の感知能力にどこまで通じるかなと思いながら、目星をつけた場所へ向かって走るのだった。
ゾンビ鬼。
うさみがそう呼ぶ遊びを休日前の夜の学院の敷地内で開催中。
決まりごとはそう難しくない。
まずゾンビと人間に分かれる。
ゾンビ役が人間役を追いかける。
ゾンビ役に触られたものはゾンビ役になる。
ゾンビはどんどん増えていく。
人間役は最後まで生き残ったものが優勝、ゾンビ役は一番たくさん人をゾンビにしたものが優勝。
そういう遊びだ。
ゾンビというのは動く死体のことだそうで、触られただけでゾンビになるという恐ろしい不死人の存在はメルエールは寡聞にしてしらなかった。
鬼がどこから来たのかもよくわからなかった。
そこのところをうさみにツッコむと、考えた人に言ってよと返された。
とりあえずなんかそういうものらしい。
そういうことで。
ここに人間はメルエールしかおらず、運動能力で劣るために大体ゾンビでいる。なんだか不思議な状況である。
人間で強いのはウサギやネズミなどの小型の使い魔だ。
ゾンビで強いのはもちろん捕食者たる大型獣や竜。
梟などは空に逃げるとどうしようもないし飛ぶのを禁止すると勝負にならないので毎回ゾンビ役で、これまた強力なゾンビである。
小型の使い魔が人間役で強いのは、素養だけでなく、加減しないと死ぬので強者の側がとどめをさす時に気を使うからという理由もある。
虎や竜や獅子が撫でるだけで死ぬ。殺すと主人の人間関係に悪影響となるのがわかっているので加減するしそもそもあまり狙わないのだ。
大型の使い魔は中くらいの使い魔を先に狙うので、その分生き残りやすいのである。
だからといって、余裕こいてると空から梟による無音の強襲が降ってきたり、蛇が待ち構えていたりするので油断はできない。
命は取らないように気を付けているが、それでも結構命がけ。手加減失敗され死ぬとか発生したら事件。
それがゾンビ鬼であった。
メルエールは虎に狙われていた獅子に奇襲を仕掛けゾンビにするという快挙を成し遂げたが、その際もつれ込んだ二体に巻き込まれて死にかけた。
その後二試合目に入るところを疲れたもう無理死ぬといって抜け出してきた。
つい勢いでやってしまったが、人間より大きい獣の争いに割って入るのは、よく考えたら正気の沙汰じゃないなと痛感しつつ、ちょうどいいところにあった長椅子に座って観戦に回る。
「おつかれーメルエール様すごいねえ恐れ知らずだねえ」
「あんたどの口がそんなことを言うのか」
それを見てうさみがやってきて声をかけながら隣に腰を下ろす。
竜の背中に乗って参加している方がよほど恐れ知らずであろうとメルエールは思う。
だってあの竜、王族の使い魔だもの。
「なんかね、ご主人様が重くなってきたから人を乗せる練習をもっとしたいんだって」
「重くなったとか人前で言わないでよ絶対」
なおその王族は女性である。お姫様。
「まあそれもよくないとして。……言われるままに参加してみたけれど、なんでこんな?」
王族のこととか考えたくないので置いておいて。
メルエールにはこの遊びは他人の使い魔を巻き込んで危険な遊びをしているように思えた。
「見た目よりみんな気を使ってるから大丈夫だよ。事故が起きたら隠ぺいするってことで合意してるし」
「待ってちょっと聞き逃せない」
「ダイジョーブネマワシカンペキヨ」
「あんたねえ」
へらへらと笑ううさみ。
メルエールが思わず立ち上がって怒鳴りつけようとしたところで、うさみが手を突き付けてくる。
「まあまあ。本当に大丈夫だから。偉い人が責任者やってくれてるから。わたし主催じゃないんだよ。むしろ止めようとしたら怒られちゃうよ?」
「は?」
偉い人。
今そういわれたら思い浮かぶのは一人である。
まさか……。
「ウサギとかは逃げ隠れしても強くなるんだよね。他の命を奪わなくても」
「何よ急に」
「虎とかは狩りをすることでも強くなれるみたい。失敗して食べなくても、狩りをするだけでもね。もちろん、命を奪っても強くなるんだけど」
「……」
突然話が変わったが、これはいつかの話の続きだろうかとメルエールは思った。
命を奪う。レベル。クラス。スキル。そんな感じのことを言っていた、あの時と似た雰囲気。
「多分、役割とか、本来の姿みたいなのがあるんじゃないかって。それに従うと、レベルが上がるみたい。クラスとレベルを合わせたような感じだよね……というのはおいといて」
やはり。
……と思ったが余談だったらしい。
「その本来の役割みたいなことから外れると、逆説的に成長しにくかったり、心に負荷がかかるみたいなんだ。使い魔の皆さんに訊いて回ったから結構正しいと思う」
「いつの間に……」
「そんなわけでウサギさんに野性を取り戻してもらおうといろいろやってたら、みんな集まってきてね。そのうち竜の子も来て、連れられてって、わたくしが命じます。やりなさいって」
話が戻ってきた。
王族に。
ひぃ。
「っていうかあたしに話が来てないのは何でよ……」
「何か起きたら使い魔同士のじゃれ合いで済ますから主人は知らなかったことにしようって暗黙の合意があって」
「……それ、あたし今ここにいるのマズくない?」
翌日、メルエールは王族に呼び出された。