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剣初心者うさみ 59

「先日はありがとうございました」

「ん? ああうん。わたしの役目だから気にしないで。なんなら師範に感謝してね」


 無事快癒して街の道場へ戻ることが出来たバルディは、時間を見つけて、道場の隅でいつも通り素振りをしていたうさみに礼を伝えに行った。

 しかし、イマイチ反応が鈍かった。

 礼を言う側が、きちんと礼を受け取れと要求するのもおかしな話だが、どこかふわふわして座りが悪そうな感覚があった。


 おやつの時間や空き時間に話しをするときは、もっと気さくで、きちんと流れに乗って、反応に違和感を感じさせない。素振り中の無表情さと比べ、他者への受け答えについてはむしろ表情豊かな方だろう。

 それがこの煮え切らない反応である。


 礼を言われ慣れておらず照れている、という感じでもない。

 おジョウさんのうさみ好きは道場の皆が知るところであり、ことあるごとに構いかける。そしてちょっとしたこと、例えばおやつを運ぶのを手伝ったり、そんなことでも礼を言ったりしている。

 そんな様子を見ているので他の者も礼を伝えるようになっていたりする。

 つまり礼を言われることは慣れているし、普段なら笑ってどういたしましてと返すところ。

 また、おジョウさんにベタベタに甘えられ、呆れつつも満更でない様子を頻繁に見かけるので、それと比べるてもどうにも淡白に過ぎるようにバルディには感じられた。


 例えるなら身に覚えがないことで礼を受けて生返事しているような。

 その後に話を合わせているので完全に忘れていたことについて、といった方が近いかもしれない。

 どちらにしても当事者意識が欠けている、そんな印象であった。



 とはいえ。


 そういう印象を持ったからといって、バルディに何かできるわけではない。

 直接「あなたちょっと変じゃないですか」と尋ねるわけにもいかない。

 ただ少しの疑問が集中を乱すことになったと、そのくらいの影響が出た程度である。


 しかし、その影響を見逃さなかった者もいた。


「バルディ、まだ調子悪いですの?」

「だな、休んで体が鈍ったか?」


 まず最も近い同期の二人。

 修練を共にしている二人ならバルディの様子に気づくのはおかしなことではない。

 そうでなくとも病み上がりということで様子をうかがっていたのだろう。

 気遣われると申し訳ない気分になった。

 なにせ自覚的には体調自体はむしろ調子がよかったのだ。

 三日間でついた動き出せばサビはすぐに落とせた。むしろ【回復力】を意識するようになったことで体の隅々まで意識が浸透し、認識が全体的にはっきりとしてきた感覚があった。

 かわりに腹が減って仕方がない面はあったが。


 次に師範代もバルディを気にしていた。

 そしてバルディの状態にも気づいていたようだったが、チャロン、ミーナとのやり取りの間は口を出そうとしなかった。見守ってくれていたのだと思う。


 それから最後。

 おジョウさんである。


「まだ絶好調って様子じゃなさそうね?」


 そして修練の後、仕事に向かうところで声がかかったのだった。

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