剣初心者うさみ 57
予約設定がずれていたようです。申し訳ない。
「元気ないわね、バルディくん」
「怪我で寝込んでますからね」
安静にしているバルディに声がかけられた。
見れば、おジョウさんがお茶の一式をお盆に載せて寄ってくるところだった。
怪我をして三日目、完治までもう一晩。
一日一度、怪我の処置が得意な先輩に診てもらい、あとは五度の食事を平らげて自身の【回復力】に専念する。
そんな生活は、普段修練で動き回っているのと比べると大変暇で物足りない。体が鈍りそうな気もする。
かといって下手に動くわけにもいかない。
集中しなければ、完治が遅れるかもしれないのだ。
気がかりといえば帳簿の仕事もである。
三日分溜まっているとすれば、まあ一日道場に泊まれば挽回できるが、これも毎日やらなければ落ち着かない。
だが伝票と帳簿を持ち出して荘園まで届けてくれというのは、三日間の為だとするとあまりよろしくない。もっと長期ならばともかく。
伝票は簡単に言えば売買のメモである。これを帳簿に書き写すわけだが、下手に持ち出したりして伝票が一枚でもどこかに紛れてしまったら困る。
残金と照らし合わせてずれていたら全部一から見直し計算しなおしなのだ。そんなことになったら三日どころじゃすまない。
想像したバルディの顔色が悪くなった。
「今なにか違う事考えて勝手に落ち込んだね?」
「え、あっ、その、はい」
なかなかの洞察力である。
「怪我や病気で休んでるときは暇だから余計なことを考えて気が滅入ったりしがちだからね、気を付けないといけないわよ?」
「なんでわか……気を付けるとは?」
お茶とお茶菓子を差し出しながら言うので尋ね返すと、おジョウさんが胸を張る。柔らかそうである。
「これでも道場主の娘を十六年やっているからね。跡継ぎ候補でもあるのだから、人を見る目はそれなりに鍛えているのよ」
うふふと笑うおジョウさん。
「書物でも読んだり、誰かと話したり、努めて前向きなことを考えたりね。病み上がりで好きなものを食べられる明日のご飯何がいいかな、とか」
「明日は道場に泊まりですねえ」
仕事の遅れを処理しなければならない。
道場飯なのでバルディに決定権はない。
「そこはあたしが融通してあげてもいいのよ」
道場主の娘がここにいた!
とはいえ。
「三日続けて好きなものいただいてるので遠慮します」
「あらそう?」
この休み中の食事はおジョウさんの手料理である。
一日五回で量も多いとなると大雑把なものになるかと思いきや、種類で攻められていたのだ。
銀シャリ山盛りだけではなく、野菜肉他魚様々な食材を使い、種類も豊富である。
よくもこれだけ仕込む時間があるものだと感心するくらいであるので、毎回バルディが好きな料理が混じっていたのであった。
肉団子のあんかけや蒸かした芋を潰して塩と香草を振った料理、豆腐を潰して味噌と混ぜ茹でた菜っ葉を和えた料理、それから荘園でとれる卵の料理全般。
思い出していると、笑い声が聞こえたのでそちらを見る。
「食べ物で元気になるならいいことだわ」
と、おジョウさんが笑う。
バルディは顔が熱くなった。そして何か言い返そうとしたところでさらに先手を取られる。
「ま、好きな料理はいくつか把握したからね。あたしが選びましょう。うふふ」
お姉さんは強かった。