剣初心者うさみ 53
時は流れ、バルディが入門して一年が経過した。
ハン大先生の息子はケン、シ・ケンと名付けられ、大事に育てられている。
一方バルディたちはとてもつらい目に遭っていた。
「はい、あと十、九、八……」
「ぐぐぐ」「う゛~~~~」「(パクパク)」
師範代、のさらに代わりのおジョウさんが数を数える中、バルディたちは面妖な格好で唸っていた。
最近導入された修練で、体幹を鍛えるためのものだということだ。
体幹というのは体の中でも中心となる筋肉のことだそうで、これを鍛えることで体勢を崩しにくくなったり、体勢を崩した状態でもうまく動けたりするらしい。
ついでに姿勢もよくなるからカッコいいぞと言われれば、男の子としては心の奥の方をくすぐられるし、女の子のミーナも使用人として外見は重要なところでありこちらもやる気を出した。
以前からやっている怪我を予防する柔軟というものとあわせて行う。
地味な修練の時間が以前にもまして増えたということだ。
しかもつらい。
きつい体勢で手足を伸ばし、ゆっくりじっくり動かしたり、一定の時間固定したり。
姿勢は細かく指示され、少し緩むと指摘される。手も気も抜く隙がない。
これが見た目滑稽である上に、一見では想像できない負荷がある。
「本当はね、これ入門直後からやってたのよ」
合間に息を整えているところに、おジョウさんが声をかけてくる。
息を整えているところにである。
答える余裕もなく、バルディ、チャロン、ミーナの三人はおジョウさんをみるばかりである。
「でもね、始めたばかりの子にこれをやらせると半分以上十日以内に辞めちゃうのよ」
現在も十日間はお試し期間であり、基礎体力を作るための走り込みと雑用ばかりだった。
走り込みも十分つらかったが、わかりやすさはあった。
長時間走る体力は鍛える上でも、そして戦いの上でも、戦いに行くまででも重要なことであると。
だが、体幹修練はそれだけ見るとつらいばかりでなんだかよくわからないのだ。
筋肉痛も来る。
成果が目に見えにくく先の想像も難しい、つらい修練。
口で必要なことといわれても、自身が想像し実感できなければつらいのではないだろうか。
「だから人気の球打ち修練の順番を先に回したりしたのよ」
「それはいい判断だったと思いますですの」
球打ちの娯楽版ともいえる野球において、“一発屋”との異名を得たミーナが言うとバルディとチャロンが頷いた。
球打ちは楽しい修練で野球はもっと楽しい娯楽である。
それに、修練に慣れてきて先輩方と交流の余裕が出てきたあたりで始まるのでその点でもちょうどよいと思われる。
これも道場が得てきた知見の蓄積なのだろう。
道場もまた自分たちと同じように成長していると考えると面白い。
「はい休憩終わり、次いくよー」
「ひぃ」
慣れるまでしばらくかかるようだ。




