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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
剣士編

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剣初心者うさみ 52

 道場破りは道場にとって迷惑なだけの存在だ。


 勝って当然、負ければ名声が落ちる。

 名声が落ちるということは人・物・金が離れていくということだ。

 つまり道場の維持に支障が出る。


 しかしながら、恐れていると思われるのもよろしくない。

 それは悪評である。

 悪評が広まれば名声が落ちる。


「名のある剣士に負けるのならば、まだいいの。すごい剣士とすごい剣士ならどっちが負けてもおかしくないから」



 休日前のお泊り中。

 バルディは、おジョウさんに話を聞いていた。

 話題は道場破りのことである。



「例えば師範同士が同じくらいの強さなら勝敗を分けるのは実力以外の要素になる。どんなに強くても調子が悪いことも、相手が調子がいいこともあるわけね。百回に九十九回勝てたとしても百回に一回を引けば負けることがある。確実に勝負に勝つ、なんてことは、よほどの実力差がないとありえないのよ。バルディ君も、強い相手に一本取ったでしょう?」


 剣術大会子どもの部で豪打必倒流ゴウゲンを相手に奇襲を仕掛けて成功した。

 自分でもうまくいきすぎたと思わなくもない。

 成功させるための修練はしていたが、その後は逃げるしかできなかった。実力差は身にしみてわかっているのだ。

 それでも先手で一本取った。

 条件を揃えれば弱い方が勝つことはありうるのだ。


「だからどこの流派も師範は滅多に剣術大会に出ないのよ。ぽっと出の無名な相手に負けたら流派の、文字通り名が廃る。風評は結果しか見ないから、無名の相手に激戦で負けてその相手が疲弊して次の試合いいところなしで負けた、なんてなると最悪ね」


 どこかで聞いたような話である。


「バルディ君は一距両疾流を名乗ったから少し変わるのよ。道場を構えている流派の門下であればそれだけで評価がつくし、一距両疾流(うち)の門下生がやたらしぶといって評判もあるからね」

「実際の実力よりも評判で評価されるのですか」

「そうよ。直接知らない相手は評判で判断するしかないでしょう? 実際に見えれば外見も参考になるけれど。でも素人はそれ以上はわからないから」

「風評と見た目で弱そうと判断された者に負ければもっと弱いという評価になるわけですか」

「そう。それで弟子なら修行が足りないで済むけど師範が負けたらどうしようもないわよね」


 バルディの背筋をゾクリと悪寒が走る。

 なにか恐ろしい物の片鱗を感じた。

 剣で太刀打ちするにはあまりに相性が悪い巨大なもの。

 ただ、それはむしろ商人の方が戦いやすいのではないか――いや、商人もまた利を武器にするものだが、風評にも多大な影響を受ける。

 厄介なものであった。


「で、そもそも他流試合は禁令が出てるのよ。でも個人だと後ろの被害を考えないから軽く挑んだりしてくるの」


 どこそこの流派だと名乗ればその流派に罰則が与えられるだろうが個人では逃げれば勝ちだ。逃げ切る自信があるならば。

 そして挑まれた方は逃げたという風評を広められると困る。

 禁令を破るのもマズい。

 理不尽なことだ。



「そういうことを踏まえて、道場破りにもいろいろいるの」

「強いと評価されている師範に勝って名声を得ようとする以外にですか?」

「ええ。ひとつには、道場破りがいかに迷惑か理解していない人。暴れることも多いから、気を付けないといけないわ」

「気を付けるとは」

「近づかないように? 後は変に怒らせないとか」


 割と適当だった。


「次に脅迫目的。理解したうえでお金をせびりにくる輩ね。お金を渡せば黙って帰るけど、味を占めてまた来るかもしれない」

「嫌なやつですね。実際にいたんですか?」

「他所の道場だけどね」


 道場同士の寄り合いで耳にしたらしい。

 具体的にどことかその後どうなったとかは不明ということだ。

 道場破りへの対策も、すべてではないにせよある程度共有しているのだそうで。

 返り討ちにすればいいという意見も強いらしいが。


「相手によって臨機応変に扱って面倒がないように収めなくちゃいけないから、おとハン先生も苦労したみたいよ。場合によっては立ち会う方がいい場合もあるし」


 そういえば師範代は他流派も使う。ハン大先生に負けたとか。

 なるほど。


「ところで、もしうまく避けられず、悪条件が重なって負けるようなことになったら、例えば先日の、大先生が酔っていた時とか」


「袋叩きにするか、闇討ちするかするんじゃないかしら」


 怖いことをさらっというおジョウさん。ばれなければ大丈夫? そうですか。


「でも、あの時は万が一相手が暴れても大丈夫だったのよ? でなければ、バルディ君が追いかけてくるのは止めていたし、奥に通さなかったわ」


 いたずらっぽく笑うおジョウさん。

 何かバルディがまだ知らない切り札があるのだろうか。


「そういうわけで、道場破りはうまくかわして最悪口封じするの。幻滅した?」

「いえ、納得しました……なんで私にこの話を?」


 強い師範に憧れて真面目で純朴に頑張ってる剣士なら幻滅するかもしれない。

 ただバルディは損得に聡い生まれであったので理解できてしまったのだが。


「内向きのお仕事を任せているから、知ってもらった方がいいこともあるの。道場がつぶれると大勢困ることになるからね」

「それは、はい」


 既得権とは日々の糧を得る権利だ。

 組織であれば大勢に関わる。

 道場の運営も大変なのだと、バルディは改めて思った。


 なお、バルディが受け持つ仕事もその大変の中で結構な比重を持っているのだが、自覚は薄いようだった。

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