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使い魔?うさみのご主人様 35

 星空から視線を下げた。

 深夜の遊歩道脇の木陰に光るものを見た。

 一つ二つではない。

 十、二十という数である。


 ぞわり。


「ひっ、何あれおばけ!?」

「えっ、お、おばけ? どこ!?」


 メルエールが驚くと、うさみがもっと驚いた。

 手の届かないところをふらふらちょろちょろ動いていたのが、一瞬でメルエールの後ろにぴたりと張り付いて裾をがっちり握っていた。


「ちょっとこら、あたしを盾にするんじゃない! ほらあそこ!」


 メルエールが謎の光点を指さすと。


「あっなーんだ。おーい」


 うさみがあっさり離れて手を振った。

 先ほどのおびえたような反応は何だったのか。


 うさみが手招きして木陰から動き出す光の群れ。

 メルエールは息をのむ。

 しかし、星明かりが届く場所まで移動したところでその正体が分かった。


「使い魔?」


 それは、使い魔たちだった。

 猫、ウサギ、梟、蛇、ネズミ、虎、獅子、竜などなど。

 よく見る個体から、話だけは聞いたことがあるような個体まで、かわいい使い魔愛好会の所属していないものまで、集まっていた。


「メルエール様この子達相手におびえないでよ」

「いや、あんたのほうがおびえてたでしょ」

「メルエール様がおばけとか言うから」


 しょうもない言い争いをしつつ、うさみは寄ってくる使い魔たちの真ん中に。

 メルエールはそういえばエルフは真っ暗でも見えるから、さっきの光景も違って見えたのか、と気づく。

 闇の中に光っていたのは彼らの目。

 星のきらめきと比べると、どこか不気味な感触があったのは、彼らがこちらを見ていたからだろうか。

 しかし、うさみはおばけが怖いのか。

 ふふふ。


「と、それより、あんた人の使い魔をこんなところに集めて何をしているのよ」

「集めてないよ集まっただけで」


 ねー、とうさみがまわりに同調を促すが、皆どこ吹く風であった。

 うさみを中心に集まってはいるが、ただそれだけ。視線はバラバラで行動も一様ではなかった。


 そんななか、ウサギの使い魔がうさみの足元でぴょんぴょん跳ねる。

 この子はよく見る、同じ教室の、うさみが来てから最初に絡んだ同級生の使い魔だ。


「実はさあ、この子わたしが面倒見てた子なんだよね」

「え、ウサギを飼ってたことはないわよ?」

「時系列考えなよ」

「あ、召喚前……」


 そんなことがあるものなのか。

 メルエールはすごい偶然だなあと感心した。

 王立魔術学院で教える使い魔召喚は世界中から適性な個体を召喚するという。

 ウサギなんてそれこそいくらでもいるだろうに、うさみが飼育していた個体にあたるとは。


 ウサギがうさみに抱き上げられ、体を撫でられ、目を細めている。

 その姿には確かに信頼関係を感じさせられた。


「まあ面倒見てたって言っても、作りすぎた野菜をあげてただけなんだけど。いっぱいいるからいなくなったのも気づかなかったし」


 そうでもなかったかもしれない。


「いっぱいってどれくらい?」

「毎年いっぱい生まれていっぱい死ぬから数えてないけど、ご飯あげてたから普通より増えてたんじゃないかなあ。千よりは多かったと思うよ。帝国ほどじゃないけど」


 帝国?

 いきなり現れた場違いな言葉。

 しかしメルエールはそれについて言及する間もなく、うさみは話を続ける。


「で、この子親元から引き離されたわけじゃない? だから代わりにウサギとしての強くなる方法を教えてあげようと思って」

「う、ウサギとしての強くなる方法?」

「うん。それで暇な夜中に時々遊んでたんだけど、夜行性の子たちが集まるようになっちゃって。使い魔になって賢くなってるけど、本能もあるみたいだから、夜動きたい子はいるんだよね。動かないとストレスたまるとかさ」

「すと?」


 使い魔は、召喚時に主の命令を理解できる程度の知性をあたえられる。

 なので野生動物などであっても、複雑な命令をこなせるようになる。

 しかしうさみが言うには、そんな使い魔も本来の生態があり、大きく離れるとつらい思いをするのだそうだ。

 もちろん、感覚共有や意思疎通を行えるわけで、使い魔側も苦しい思いをするなら主にそれを伝えることはできる。

 なので、本来夜活動する種の使い魔は、夜中放されることが多いのだという。


「そういえばそんなことを習ったような……なんであんたそんなに詳しいの?」

「なんでって、この子達の主の人に訊いたから?」

「いつの間に……」


 知らない間にうさみが他の学院生に接触していたという。

 まるで気づかなかった。

 機会はないわけではない。

 今日のように夜もそうだが、メルエールが勉強会に集中しているときや、最近では雑務を任せて別行動をとることもある。

 そんな時に話をすることはできる。


 が。


 失礼な真似してないでしょうね。


 メルエールは知っている。

 竜とか虎とか獅子とかは上位貴族、さらには王族の使い魔だと。

 かわいい使い魔愛好会に公爵令嬢様が参加していたことを知った後、調べなおしたのだ。

 いままではそもそも互いに近寄るようなことがなかったため、そこまで気にする必要はなかったのだが、愛好会の活動や、参加はしていないが勧誘は受けている使い魔戦闘遊戯の関係で関わる可能性がないとは言えない。

 偉い人の使い魔とか超関わりたくないというのが本音である。


 しかし、メルエールは言えなかった。

 竜の使い魔の背中に寝転がって、小動物に群がられているうさみに、失礼な真似してないでしょうねとか言えなかった。

 だって今まさにしているし。

 してないでしょうねも何もない。


 竜といっても小型のもので、虎や獅子と同じくらいの大きさでしかない。

 それでも十分大きくて、小さなうさみが平気で寝られるほどなわけだが、問題は個体の脅威より相手の主の地位だ。

 竜の使い魔は学院でも一体しかいないのだ。

 それに他の使い魔も軽視できる相手ではない。


 見なかったことにしたい。

 でも使い魔たちに見られてしまったわけで。

 ということはその主に知られていると思った方がいい。

 夜だから寝ている可能性が高いが、もしかすると起きているかもしれない。

 いやでも寝てるかもしれないし。

 その可能性に賭ける、か?


「まあその、使い魔同士で楽しんでるのを邪魔するのもよくないと思いますのでわたくしはこれで」

「せっかくだから見ていけば?」


 帰ろうとすると引き留められた。

 うさみに。

 こいつ……裏切ったな!


 裏切ったも何もないのだが、メルエールはそう思った。

 全力で関わりたくないと思っていたのだ。仕方ないのかもしれない。


 立ち去ろうと背を向けたところで引き留められ、ゆっくりと振り向く。

 すると。

 使い魔たちが皆メルエールを見ていた。


 ひぃ。


 メルエールは叫ばなかったことは自分をほめていいと思った。

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