剣初心者うさみ 50
バルディのお泊り期間が無事終わり、その後週末お泊りを実家と道場から勝ち取り、週末残業を嬉々として行うようになってから月が一度欠けて満ちたころのことだった。
「たのもう!」
その日、バルディは門衛の当番だった。
一距両疾流では二人以上で門の前に立ち、来客の取り次ぎや駆け込み、殴り込みなどに対応することになっている。
公的に補助を受けている道場では、その町内の治安維持にも協力することになっているので、門扉を閉じっぱなしというわけにはいかない。
そのため、日があるうちは立ち番を行うことになっているのだ。
役割上、基本的には内弟子である松組の先輩、そして少なくとも一人はある程度社交性が高い者が配置される。
そしてそれとは別に、門の内側に待機する要員が居る。
ここが若葉組であるバルディの配置だ。
主に中へ用件を伝えに行ったり、外へ連絡に出たりという役目で、要するに使い走りである。
余談おジョウさんもよくこの役割を好んで引き受け、近所の人たちと立ち話などしている姿を見ることが出来る。バルディが入門した際もそうだったのでおジョウさんが応対してくれたのだ。
さて、たのもうと現れたのは大柄で腰にやや長めの剣を差し軽装の鎧をまとった姿という、見るからに剣士であり、顔にはいくつもの傷跡が。その物腰には自身と実績をうかがわせるものがあった。
そして何より気迫があった。
剣術大会で豪打必倒流ゴウゲンが放っていたものに似た、しかしより鋭く重い気配がその身の内に秘められ解き放たれるのを今か今かと待っているような。
これを感じ取れたのも大会に出場したおかげだなと思いつつも、バルディは圧倒されて喉をゴクリと鳴らした。
少なくとも、ゴウゲンよりも腕はいいだろう。
だが、どれだけ強いのかは今のバルディには見当もつかない。
「何用か」
剣士に対して門衛の先輩が答えたことで、バルディの時間も動き始める。
門衛の対応は相手に合わせて臨機応変に行われる。
相手が形式を重視するようならそのように、近所のおばちゃんと話す時は気軽な風に対応する。
今回はたのもうと古く形式的な態度で来たのでこちらも合わせて固い対応となった。
そして先方は頷いて息を吸い込み、言い放つ。
「それがし、天下一剣流ザンバと申す者! この道場で最も強い方と手合わせ願いたく参上した次第。それがしが勝てば看板を所望する。勝負の形式はそちらの流儀に従う。貴殿らの師に取り次ぎ願いたい!」
道場破りが現れた。