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剣初心者うさみ 48

 過ぎた時間は三秒ほど。

 これ以上時間が空くと“間”が抜けてしまう、限界だ。

 バルディは何かしゃべって場を繋ぐことにした。


「あの場にゴウゲン殿は居なかったはず。ですね?」

「然り」


 わかり切ったことを尋ねて時間を稼ぐ。


「しかしこうしてこの場にいるのはゴウゲン殿のみ」

「それは……」

「お待ちください。こうなるだけの事情があったことはお察しします」


 時間を稼ぐ中で思いつく。この線でいこう。他に思いつく猶予もない。


「ただ一つ。同じことは起きないと考えてよろしいですか?」

「無論。そこはわが師が責任をもって請け負うと」

「なるほど」


 道場で教育されたのだろう。折檻、御仕置などともいう。“された”ではなく“されている”かもしれないが。

 闇討ちを仕掛けてきた連中は、こちらに害がなければ正直どうなってもいい。この件をさらに逆恨みして、となる可能性はあるが、まあ師匠の名前を出す以上は信用すべきところだ。

 しかし目の前にいるゴウゲンだ。

 剣術大会でバルディに当たったのが既に事故のようなもので、その結果なんやかんやでこうしてここにいる。

 気の毒としか思えない。

 なので。


「しからば。自らがこの一件の責任を取ろうというゴウゲン殿のお覚悟、このバルディ感服いたしました。どうか顔をお上げください。お師匠様、ゴウゲン殿の義心に免じて謝罪を受けた上で、今回の件手打ちとしていただきたいのですが、如何?」


 ゴウゲンはまだ頭をあげない。

 しかしバルディはそれを置いておいて、ハン大先生に顔を向けて頭を下げた。


「我が弟子バルディよ、本来ならばゴウゲン殿にケジメをつけてもらうのが筋だが?」

「そこをどうか、お願いします。ゴウゲン殿の実力は私が身をもって知っており、こういうのもなんですが、今回の件が起こるほどの人望もそして本人の心根も証明されました。そんな前途有望な剣士をここで失うのは剣の街としても大きな損失でしょう。なにとぞ」


 ゴウゲンを褒めたりなかったか。

 ハン大先生が混ぜっ返すようなことを言っているが、この人も最終的には無難に収めたいはずなのだ。

 ならばこの方向性でいいはず。


 バルディは自身の判断が間違ってないことを祈りつつ、ゴウゲンを褒める言葉を重ねた上でお願いした。

 弟子が師匠に頼み込む形。


「そうか。そうまで言われては仕方があるまい。ゴウゲン殿、頭を上げられよ。貴殿の命はこの件に使うには高すぎるそうだ」

「恐縮です」


 ようやっとゴウゲンが頭を上げた。

 先ほどまでの気迫は霧散し、気を緩めた様子は巨漢ではあるが年相応の少年にも見える。

 ちょっと目が潤んでいるのは見なかったことにすべきだろう。


「ようし、手打ちだ。ゴウゲン殿、こうまで言われた以上は、立派な剣士となるのが貴殿の務めぞ」

「くっ……! かたじけない……」


 決壊したが見なかったことにした。


 その後、形式的な和解の儀式を行った。

 同じ卓同じ皿で食事を共にするというものだ。さらに簡易化されるとおなじ杯で酒を飲むというのもあるが、今回は不採用だった。

 ハン大先生が手を叩いて合図をすると、まるで出待ちしていたかのように料理が運び込まれ、滞りなく儀式は終わり、両が多かったのでお腹いっぱいになった。



 終わってみれば、みんなで演劇でもやっていたようなものだ。筋書きはハン大先生と向うの責任者が利害の一致として共有していたのではないだろうか。

 なぜならこういった事件が今までにも起きていてもおかしくないからだ。

 ここは剣の街なのだから。

 前例と無難な収め方が共有されていてもおかしくはない。それより事が起きない方に注力してほしいとも思うが、対処より予防の方が大変なのもわかる。


 もしかしたらゴウゲンがこうしてやってきたことは想定外だったかもしれない。

 そして結局のところ未遂であり被害は出ていないのだから、丸く収めるのが最善のはず。

 つまり、表向きにはなかったことに、裏向きには理由をつけて手打ち。そういうことになったのだ。

 バルディはそのつもりで相手を褒め、師匠に頼んだ。

 謝りに来たことで一距両疾流の面子はたつし、褒めて特別に許したことで豪打必倒流のメンツが立つ。

 ハン大先生もバルディが間違えた判断をしたら師匠の強権で穏便に済ませたのではないだろうか。


 みんなで美味しいご飯を食べてめでたしめでたしということだ。

 話してみるとゴウゲンは気のいい男だった。

 豪打必倒流の若手の中心人物なのだろう。そうでもなければこんな騒ぎになっていないはずだ。

 最終的に、別流派の有力な剣士につなぎができたという結果になったのだった。

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