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剣初心者うさみ 46

 バルディが道場お泊りで革命的な勤務形態を閃いたり、料理を手取り足取り、いや、足は取ってないが、教わったりした数日の間に、特筆すべき事件があった。


 それはお泊り二日目のこと。

 お泊りでも修練は通常通り若葉組として行われるのだが、これを中断してバルディのみが呼び出された。


「バルディ、入ります」

「うむ」


 呼び出された応接室。

 声をかけて、師範であり道場主であるハン大先生の返事を受けて入室すると、こちら、つまり入り口に向けて頭を床につけるように下げた、つまり伏した体勢の白づくめの人物がいた。


 バルディは怯んだ。

 異様な気迫を感じ取ったからだ。どこかで身に覚えのあるそれは、恐ろしさを想起させた。

 そのせいか、頭を下げているにもかかわらず、その人物が大きく見える。


「バルディ。こちら、豪打必倒流のゴウゲン殿だ。剣術大会で当たった相手、覚えているな?」

「え、ああ、覚えております。恐ろしい剛剣で、自分は一撃で吹き飛ばされ目を回したのです。それよりこれは……」


 なるほど、大きく見えるのではなく実際に大きかったらしい。

 豪打必倒流のゴウゲンといえばバルディと当たって疲労して二回戦で負けたという籤運に恵まれなかった、あるいはバルディたち一距両疾流の被害者ともいえる剣士。

 試合では巨剣を振り回し、バルディは最終的に気絶に追い込まれた。

 本選出場濃厚な有力候補だったそうだ。

 つまりこの度バルディを闇討ちした容疑の最右翼である。


「この度バルディ殿にご迷惑をおかけした儀、伏して謝罪いたす。このような動きに気づかず止められなかったのは俺……拙者の不徳の致すところ。首謀者は身動きできない状況故、元凶である拙者が参った。どうぞ、この身を如何様にも。その上でどうか、拙者の身柄にて手打ちとしていただければ。どうか、どうか」

「え」


 ゴウゲンが伏したまま告げる言葉に、バルディは気づく。

 この白づくめは死に装束であると。

 埋葬の際に死者に着せる衣である。


 これはつまり。

 ゴウゲンは死を覚悟してこの場にいるということだ。

 彼から感じられる気迫はつまりそういうことなのだ。


 バルディは気圧されて、ハン大先生に助けを求めて目を向けた。

 ハン大先生はニヤニヤ笑笑いながらバルディを見ている。何か言おうとする様子もない。


 ということは。

 どう転んでも問題ないと考えてバルディを試しているのだろう、とあたりをつける。

 バルディは改めて伏せたままのゴウゲンを見た。

 死に装束をまとい謝罪に訪れるほどの覚悟。彼は何を見ているのだろうか。

 前提として、ゴウゲンは闇討ちに参加していない。

 少なくともバルディと直接対峙していない。

 先ほど本人もそのような意味のことを言っていた。


 命を懸けるほどのことがあるのか。


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