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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
剣士編

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剣初心者うさみ 44

 道場お泊り偽内弟子生活では、いつもの帳簿の仕事を除けば雑務を多く振られることになった。

 内弟子の先輩方の修練に混ざることが出来るわけではないからだ。

 門外不出の秘伝のこともあれば、足を引っ張ってしまうこともある。

 道場としても大事なのは内弟子である。

 また、バルディは若葉組での修練がある。若葉組は仲間と合わせての修練であることと、量にも制限があるために一人だけ追加というわけにはいかない。


 だからというわけではないが、何もさせないのもなんなので、雑務を申し付けられることになるわけである。

 雑用係だ。


 そして雑用係の朝は早い。

 道場は日の出とともに動き出すので、それより早く準備をする必要がある。


「修練の予定次第でもっと早いのよ」


 朝駆けの修練のためにそういうこともあるらしい。

 水の用意から始まり掃除洗濯料理と大勢が生活している空間の雑務は多いのだ。

 ただ暗い中で行うことはまず料理である。


「包丁は初めて扱いますね」

「そうなの?」

「商材としては関わったことがありますけど」


 バルディは実家では料理に携わることはなかった。

 母を中心として専属の使用人が調理に当たっていたからだ。

 商家も関わる人数はそれなりに多いため、用意すべき量も多い。要所を身内で固め、専用の人員を雇えばいいという方向性であたっていた。


 しかし、一距両疾流道場では、労働力は門下生で賄っていた。

 基本的には当番制だがバルディのように自動的に割り振られるものもいる。

 料理がうまく本人も周囲もこいつを外すのはあり得ないと全会一致で選ばれた者や、責任者の娘で監督役としての役割もあるおジョウさん、あとよくわからないエルフなどが毎回参加しているそうだ。


「うさみ……さんが、の皮を剥くの早っ」

「ふふーん」

「年季を重ねれば誰でもうまくなるよ」


 なぜかおジョウさんが胸を張るが、主導的立場ではないうさみが、思わずさん付けしそうになるほど手際が良い。

 手元でくるくると芋を回したかと思うと皮が無くなっている。

 料理が得意な先輩との連携もよく、ド素人のバルディが手を出す余地がないように思えた。


「バルディ君はあたしが料理の基本を教えるわ」

「えっ」

「なに、あたしじゃ不満?」


 思わず聞き返すと、おジョウさんは頬を膨らませる。

 前々から気付いていたが、この人うさみが近くにいると子どもっぽい態度をとるようになる。


「あ、いやその、人選がどうこうじゃなくて、抜けても大丈夫のかなと」


 この場にはバルディを除いて五人。おジョウさん、うさみ、料理が得意な先輩、当番の先輩が二人だ。

 一人の手を取るということは二割も戦力が失われることになるわけだ。


「あの二人がいれば大丈夫だぜ」「料理知らない新人が入ることもあるからな、心配いらないよ」


 答えは当番の先輩方から返ってきた。

 なるほど、余計な心配だったらしい。


「料理の腕は私が上だが、教え方はおジョウさんの方がうまいからな。安心して教わるといい」


 鍋に向かっていた料理が得意な先輩がそう言いながら顔だけこちらに向けて、片目を瞑って見せる。

 ここは任せてもいい、そんな気持ちにさせる。にじみ出る頼り甲斐。自信と技術を兼ね添えた者だけが持つ安心感があった。


「そういうこと。料理も刃物を使うからね、剣と通じる部分もあるし、同じように危険もあるから、きちんと覚えようね」

「はい!」


 バルディの料理道はこれからだ。

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