剣初心者うさみ 42
「つまり、どういうことだ?」
「想像するですの。いいですの?」
「うん」
いつもの二人に結局先輩方にもったいぶられていたのはなんだったのかという話したところ、チャロンが首を傾げたので、ミーナが解説してくれた。
「すっごい優勝したいとしますですの。例えば、好きな子に告白したら『優勝したら結婚してあげるですの』と返されたとかですの」
「いやミーナに告白なんてしないぞ」
「わたくしじゃないですの!」
「でも『ですの』って」
「いつもの癖なだけですの! あとチャロンでもねーですの! ああもう、ですの」
荒ぶるミーナだがこれで表情はほとんど変わらない。
付き合いが長いだけではわからないだろう。
バルディたちは呆れ顔だとわかるが、よく知らなければ怒っていると誤解してしまうに違いない。
「えと、それじゃあ、弱小道場で優勝しないと潰れるですの」
「何の話かな?」
おジョウさんが通りがかった。
「あの、その、例え話ですの。チャロンにわかりやすく説明するためですの」
「そっかー」
ニコニコと楽しそうなおジョウさん。
ミーナは気持ち顔色を青くしているが、あのおジョウさんは機嫌はいいはずだ。
おそらく、うさみに髪を結ってもらってきたのだろう。今日は頭頂部やや後ろでまとめてから後ろに流している。ある野菜、もしくは果物を想起させた。
その後何事もなく歩き去ったおジョウさんを見送りつつ、ミーナが続ける。
「とにかく、その人は絶対優勝したいですの」
「うん」
「周りの人も応援・協力してくれて、一年間一生懸命修練して、強敵の情報も集めて対策を練り、持ち込む装備も工夫を凝らして準備したですの」
「そこまでするのか」
「そうしなければならなかったのですの」
「それじゃあ仕方ないな」
「優勝するぞー! ですの」
「優勝するぞー!」
なんだか変なノリになってきたがバルディは何も言わなかった。
「――そして兄弟子が『ここは俺に任せて先に行くですの』と」
「ミーナは兄弟子じゃないだろ」
「いつもの癖なだけですの! とにかく、強敵と『決勝で会おう』と約束を交わし、自分でも優勝にも手に届くと手ごたえを得て、ついに予選の日」
「ごくり」
「ぽっと出の最近剣を始めたような弱いのにやたらしぶとい奴に当たって、手間取って疲れて二試合目で全力が出せずに敗退。そして、好きな子には振られて道場も潰れたのですの」
「うわ、ひどいな。罠みたいなもんじゃねえか」
「ですの」
準備万端で自信も持って挑んでみたら実力を発揮できずに負けたとすれば、すっきりしないものが残るだろう。
「そして勝てなかったのは一回戦の相手のせいだと恨みに思ったわけですの」
「いやそれは逆恨みだろ」
「逆恨みも本人たちには立派な恨みですの」
事情はともあれ、大体そんな感じだろうか。
バルディは確信は持てなかったが、チャロンはしばらく難しい顔をした後頷いた。
「つまり一距両疾流のは弱いくせにやたらしぶといから恨みを買いやすいってことか」
「そういうことですの」
「そうか、弱いのか」
「一年目ですからね」
我らが一距両疾流道場が剣術大会子どもの部で嫌われている理由を再確認できた。