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使い魔?うさみのご主人様 34

 着替えたうさみが戻ってくる。

 そして背伸びをしながら窓を開ける。


 外から星明かりが差し込んできて、うさみを照らし出すのを、メルエールは寝たふりをしつつ薄目を開いて見ていた。

 金色の髪がさわりと揺れて、きらめいた。


 と思うと、うさみが窓枠を乗り越えて姿を消した。


「うぇ!?」


 メルエールは布団をはねのけ窓に駆け寄る。

 ここは二階である。建物の天井が高いので二階といっても相応の高さがある。

 落ちた?

 メルエールは窓から身を乗り出してうさみを探した。


 窓の下。

 いない。

 なんで?


 周囲にも視線をやるが、うさみの姿は見えない。

 どこに消えた?

 メルエールは背筋がぞわりと、


「なにしてるの?」


 したところで背中から声をかけられて、


「へょ!?」


 なんだかわからない悲鳴を上げて手を滑らせた。


「あ」

「あ」


 窓枠に手をかけて身を乗り出していたのだから、手が滑るとどうなるかなんてことは自明である。

 落ちる。


 メルエールは世界がとてもゆっくりに感じられた。

 あ、これ落ちるわ。

 落ちて怪我するわ。

 死にはしないだろうけれど痛いだろうな。


 何とも言えない浮遊感を感じながら、せめて顔から地面にツッコむのを回避しようとしたところで、くいっと体を引っ張られ、そこでゆっくりな世界が終わった。


 気がついたら寮の庭、窓の下でお姫様抱っこされていた。

 うさみに。


「なんで落ちてるの?」


 うさみが問う。

 なんでって。

 驚いたから?


「危ないよ?」


 危ないでしょうとも。


「気を付けないと」


 そうですね。


「……いやあんたがおどかすからでしょうが!」

「メルエール様夜夜。見回りの人に見つかったら怒られるよ」


 やっと頭の回転が戻ってきて怒りを表明したら、窘められた。

 悔しい。


「あんた一体どこにいたの。いきなりいなくなったから……」


 うさみが窓を乗り越えて消えたので落ちたのかと思って慌てたのだ。

 そこから先は冷静ではなかったので目こぼし願いたい。


「メルちゃん様がなんか様子をうかがってるから窓の上に隠れておどかそうと思って」


 メルエールが下を見ている間に、頭の上を抜けて部屋に戻って声をかけたのだという。


「やっぱりあんたがおどかすからじゃないの!」


 うさみ有罪。


「というか気づいてたの?」

「なんで気づかないと思うの? 服が消えてたし、布団の中でごそごそしてるし、なんか絡みついてくるし、そもそも寝たふりが下手だし」


 メルエール全否定。


「ところでさっきからどこに向かってるの?」


 メルエールは話を変えることにした。

 うさみがメルエールを抱っこしたまま移動していたのだ。

 今までの話題で不利になったからではない。

 どこに連れていかれるのか確かめるべきと思ったからだ。


「遊歩道の方だけど。重いからそろそろ歩いてくれる?」


 メルエールはうさみの頭をぺちんしてから大地に立った。

 真夜中ではあるが、星明かりのおかげで真っ暗ではない。目が慣れればどうにか歩くくらいは可能である。


「きれい……」


 夜中に出歩くようなことはあまりない。

 じっくり夜空を眺めることはなかった。

 今にも落ちてきそうな満天の星空。

 きらめき輝き魔術王国で育ったメルエールをして神々しいものをすら感じる。

 今日は月がないせいか、特によく見えるのだろうか。


「知ってる? あの星の一つ一つがこの世界を脅かそうとしてる悪魔なんだって」

「ちょ、人が浸ってるときになんてことを」


 うさみがとんでもないことを言い出した。

 きれいだとか今にも落ちてきそうとかいった感想を抱いている最中に。


「あ、ほら落ちてきた」


 うさみが空を指さす。

 流れ星。

 メルエールが見えたと思うと消えてしまった。

 普段ならもっと感動していただろう。

 しかし台無しである。


「だからあんたねえ……」

「あはは、嘘だよ。あのね、本当はあの光は何万年何億年も前の光なんだよ」


 うさみが笑う。

 笑いながら荒唐無稽な話をする。


「ずっと遠くからここに光が届くの。遠すぎて時間がかかるんだ。そのあいだに元の星は悪魔に滅ぼされてて、もう存在しなかったりね。悪魔は星の間の闇に隠れたり、星に擬態したりしながら星を喰らうんだよ」

「あくまアクマって、あんた悪魔好きねえ」


 この光景を前にして、あまりにも酷い空想話に、メルエールは呆れてしまった。


「や、悪魔は嫌いかなー」


 うさみは目を細めて空を見上げた。

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