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剣初心者うさみ 38

「一本!」


 審判の声が、バルディが一手先じたことを宣言した。

 バルディは大きく息をつきながら、改めて相手を見る。

 顔を真っ赤にしていた。






 二本先取で勝利。

 場外で仕切り直し。

 決められた部位(防具着用を義務付けられている)に有効な打撃を入れて一本。

 審判による警告三回で一本。

 同じく失格一回で一本。

 それとは別に審判が戦闘続行不能と判断したら敗北。

 両者戦闘続行不能の場合引き分けでなおかつ大会としては両者敗北。

 殺したら敗北。この場合も両者敗北になる。


 これが大会の基本的な規則である。

 その他試合場や持ち込める武具についても決めごとがあるが、試合が始まって以降は関係ないので割愛する。



 バルディは一つだけ奥の手を用意していたが、仮にそれが通用してもとれるのは一本だけであると考えていた。

 要するに、自力でもう一本を取らなくてはならない。

 可能なら先に一本取った後奥の手を使って二本目を取る、というのが理想。

 しかし、当たり前だが地力で負けている場合当然それは難しい。


 さて、目の前にいるのはバルディよりも強い相手。これはまず間違いないことだ。

 年齢からくる体格と経験。そして道場の流派を名乗る以上はバルディよりは剣に時間を費やしていることは想像に難くない。

 また、高く振り上げられた巨大な剣。

 これをやすやすと振り回せるだけで鍛えていることがわかるし、その届く範囲は圧倒的。

 さらに木剣であろうともその重さ。今構えている上からまっすぐに振り下ろされればこちらが受けることは難しいだろう。ビリビリと感じられる命の危機が、あ、これヤバくないかなとバルディを責める。


 しかし。

 せっかく準備したものを使わないのももったいない。

 損切りすべきとも頭の中で誰かがささやくが、商人ではなく剣士になろうとしている自分がここで踏み出せなくてなんとする。

 などと発奮させてみた。

 ここまでお互いが構えて開始の合図までにバルディが考えたことである。


 そして「はじめ」の合図とともに、若干やけくそ気味に、全力で動いた。



 体の後ろに隠していた左手の短剣を相手の顔面に全力で投げつけその勢いで斜め左方向へ踏み出しかけ抜けつつ右手の剣で相手の胴を狙ったのである。


 これがハマった。

 相手ゴウゲンが反射的に顔を護ったのである。巨剣で弾こうとして間に合わないと感じたか動きを変えて柄で短剣を防ぐ。

 その時にはバルディは間合いの内側に踏み込んでおり、ゴウゲンは巨剣の構えが崩されていた。


「一本!」


 以上がバルディが用意していた策。投擲による奇襲。

 うまくいってしまった。

 バルディは嬉しさよりも、さて次の手どうしようと思いながら短剣を拾う。

 これで終わりではないのだ。


「お前それが剣士のやることか!」


 そんなバルディに、真っ赤になって怒っている対戦相手ゴウゲンが怒鳴った。


「き、規則には反してないですよね」

「見苦しいぞーゴウゲン!」

「ぐおおおおおお!」


 言い訳気味に言い返すと同時に、男の声でヤジが飛び、ゴウゲンがそちらに向いてほえた。揶揄にしても悪意よりは親しさが感じられたので同伴していた知り合いか、旧知の好敵手か、そんなところではあるまいか。


 一方バルディの後ろからも「いいぞバルディもっかいやっちゃえ!」「バルディやったー!」と親しい女性の声が。

 だがしかしもう奇襲は通じないだろうしどうしよう。


 頭に血が上った様子の相手を前に、身の危険を感じつつ。

 二本目をどうするか考えるのだった。

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