剣初心者うさみ 37
「九十七番、一距両疾流若葉組、バルディ!」
「はい!」
そしてついにバルディの番号と名前が呼ばれる。
「がんばりな」
「がんばってですの」
おジョウさんが革の鎧の上から背中を叩き、ミーナは“ですの”で済まさず、ちゃんと言葉にして送り出してくれたので、バルディは頷いて試合場に足を踏み入れた。
「九十八番、豪打必流、ゴウゲン!」
「はっ!」
相手の名が呼ばれる。
豪打必倒流というのは聞き覚えがある。剣の街に道場がある流派のはずだ。
どんな流派だとかそこまでは知らないが、現れた相手、ゴウゲンを見ればおおよそ想像できた。
相手は十四歳以下とは思えない巨体。大人の中でも大きい方だろう。
それよりなにより目を引くのは背負った巨大な剣である。
持ち主の身長と同じかそれ以上という大きさであった。
布が巻かれているが、こうして出てきた以上は木剣なのだろう。
いや、剣というよりは板である。丸太ではないのが救いだろうか。
正直木だろうが布が巻いていようが、あれほど大きい物で殴られれば、大怪我するには十分だ。
バルディは背中にいやな汗をかいた。放っておくと蒸れる。まあ動いても汗をかくのでこれから試合ということを考えれば同じことだが。
一方、相手も、顔をしかめていた。
はっきり嫌そうな顔である。
「おい、ガキ。ビってるなら棄権しな。記念に参加したならもういいだろうよ」
「子どもの部にガキじゃないのがいるんですかね。よろしくお願いします」
「チッ」
話しかけてきたので丁重に言い返すと舌打ちする相手ゴウゲン。
師範代に礼儀をと言われたが、確かにこういう態度をする道場だと思われたらよくないことだなあと思う。
「一距両疾流は面倒なんだよ。ガキが二本も使えるのか、おい」
「やってみればわかりますよ」
バルディは木剣を二本持ちこんでいた。
右手に一般的な片手剣。腕一本ほどの長さ。ただし、拳一つ分ほど柄が長くなっている。
左手に短剣。手一つ分ほどの長さ。ちなみにどちらも自作である。
そして相手の剣は大人の身長ほどの長さ。
入門から今まで何度も教わったように攻撃できる範囲の広さは有利不利を分かつものだ。
つまり圧倒的不利。相手を見る限り年齢的にも不利であり、経験でも力で負けているのも見てのとおりである。
まず負けることになるだろう。
とはいえ、何もせずに降参するようでは出てきた意味がない。
正直怖いが。
お互いが開始位置につく。
相手は剣を両手で持ち、いつでも振り下ろせるよう構え。
バルディは半身になって右手の長い剣を前に出し、左手を後ろに隠すようにして構えた。
審判が両者が構えたことを確認し、手を挙げ。
「はじめ!」
手を振り下ろしながら言い放った。
試合開始だ。