剣初心者うさみ 36
「相手、大きかったですの」
「ああ、両手持ちの大剣だったんだって?」
「ですの。木剣だろうと布を巻いていようと、あれだけ大きいと大けがは避けられないですの」
バルディが目を覚ましたのは道場の一室だった。
寝台に横にされ、ミーナとうさみが傍にいた。
「バルディ、気がついたですの?」
「あ、うん」
目を開いたことでバルディが目覚めたことに気づいたミーナに声を掛けられて、バルディは反射的に答えた。
体が痛い。
「相手の剣で吹き飛ばされて目を回したので、道場まで連れて帰ったですの。覚えているですの?」
「えぇと……」
尋ねられたバルディは寝起きで鈍い頭を回転させ腕が痛い思い出した。
先に結果だけ述べると、初戦敗退だった。
参加を決めても修練内容に大きな変化はなかったが、許されている範囲で準備をして挑んだ。
当日の予選会場は街の兵士の修練場だった。
大勢の剣士が集まっており、体格はバルディは小さいほうだった。
年齢を考えれば当然であるのだが、入門からこっちそれなりに背が伸びていたので全体で見ると真ん中より少し下くらいのだったろう。
それぞれ布や革、あるいは木製と思われる防具に身を包み、剣を下げている。
木剣と盾を持つ者が多かったが、大きさや形状は様々だった。
武器防具に関しては一定の規定はあるのだが比較的緩く、各々の工夫のしどころであるらしい。
バルディは普段修練で使っている道場の備品の防具を借りようとしたのだが、道場が別に用意してくれていた。
革と布を組み合わせた鎧で、修練で使っている者同様に大きさを調整できるようになっていた。
新品ではなく、球打ちとは別の修練で使う用のものだそう。この年頃の子どもは直に成長するので道場としても大変らしいとかなんとか。まあそれはいい。
ともあれ、同じ場所に集められ視線で牽制し合う姿は子どもの部とはいえ皆試合を前にした剣士であると感じられるものだった。
一緒に出場する先輩や少数許される付き添い枠で同行してくれたおジョウさんやミーナたちがいなければ、バルディも雰囲気にのまれて気圧されていただろう。
さて、予選は複数の試合が並行して行われる形で進められるようで、八つの試合場が設えてあった。
といっても地面に線が引いてあるだけだ。
参加者には番号が振られ、身に着ける形にな札どこで自身の試合があるかがわかるように張り出されており、次々試合を進めていくために、呼ばれたらすぐに試合場に入れないといけないらしい。
先輩方とは別の試合場になったが、それぞれ二人ずつ道場から付き添いがついたので安心できた。と思いたかった。
一番若いバルディには道場主の娘であるおジョウさんが、そして本人の希望でミーナがついたので、女連れだとかお遊びだとか悪魔だとか、ひそひそとやられたような気がする。女性参加者もいるのに性別とかどっちでもいいじゃないか。
なんだか距離を取られた気もするし、視線がバルディよりおジョウさんに集まっていたような気もしたが気のせいだと思う。
そしてバルディの試合までの何戦かを観察したところ、玉石混交と感じられた。
だいたい大きくて強そうな方が勝つのだが、小さい方が一矢報いることもあったし、一度は小さい方が完封勝ちしたりもした。
自身の試合の前にその試合を見ることが出来たのは、バルディにとって大きな幸運であった。
また、思っていたより全体的に力強く動きが早かったのと、防具があっても木剣で打たれるのは結構痛そうだったので、少し以上にバルディは危機感を煽られることになった。




