剣初心者うさみ 34
「若葉組の出場は薦めてはいないが、希望するなら出ても構わないよ。いくつか守ってもらいたいこともあるけどね」
「やっぱり非推奨でしたか」
「まあそれはね」
調べたところ、締め切り間近。
そんな時期まで言及がないので出す気がないのだろうと。
しかし、出るなとも言われていないということは、そもそもさほど重要視していないのかと。
そう推測していたのは正解だったようで。
だいたいにおいて、三人でも話していたが、これまでの修練の範囲に一対一で殴り合うものはなかったのだ。
一対一前提の剣術大会に出場させようというのなら、もう少しこう、なにかやってるだろう。きっと。
「守ってもらいたいことってのはなんだ、です」
「うん、三つあるのだけどね。まずひとつは、『一距両疾流若葉組』で参加申請することだね」
「それが必須だと、場合によっては手遅れではですの」
「締め切った後でも間に合うからね。道場に所属している者はきちんと知らせておく必要があるのだね」
「どういう理由が?」
「大人の事情なので知らなくていいよ」
後々知ったことだが、興行上の都合で面白みを殺さないためだとか、他流派交流試合という体面を保つためだとかで優勝候補が予選でぶつかったり、初戦で同門がぶつかったりを避けて組み合わせを調整するのだそうだ。
これを知った時バルディは少し大人になったがまだその時ではない。
「二つ目は、勝っても驕らないこと。今の君たちでも勝てる相手も出場するだろうけれど、それで満足しちゃあいけない。君たちは年齢にしても、経験にしても、まだまだこれからだからね」
「勝てる相手がいるんすね」
「やりようだね」
バルディもチャロンに同意だ。攻め手を知らないのに勝てるのかというのは疑問である。
だが師範代がやりようだというのであればそうなのだろう。
「三つ目は、負けても気にしないこと。形式上最後まで勝てるのは一人だけだからね。百人いれば九十九人は負ける。そして君たちは年齢にしても、経験にしても、まだまだこれからだからね」
「さっきと同じ理由ですの」
まだまだこれからというのは勝っても負けても大事なことらしい。
合わせて勝とうが負けようがあまり意識しないようにということだろうか。
それならば道場の参加への方針がゆるゆるなのもわからなくもない。
どちらでもいいのだろう。
「四つ目は」
「三つ」「では」「なかったですの?」
「四つ目は勝っても負けても相手にありがとうございましたと礼を尽くすようにね」
三人からのツッコミを師範代は無視した。顔が怖い。いつもどおりだった。
「道場の名前で出る以上、道場の看板を背負っているのと同じこと。とはいえ発展途上の君たちですから負けるのは構わない。ただ、無礼を働くのはいけませんからね。始める時はよろしくお願いします、終わったらありがとうございましたと。最低限はやってもらわなければそれこそが看板に泥を塗ることとになってしまうからね」
「ありがとうございました」「ました」「ですの」