召喚初心者とうさみ 1
魔術陣を光が走る。
「やった、成功した……!」
その傍らで少女はつぶやいた。
三度目の正直。
すでに二度失敗を繰り返しており、あとがない状況での召喚儀式だったが、陣が起動に成功したようだ。
あとは最後まで魔力の供給を続ければいい。
最後の機会であるために失敗する要素は極力減らしてある。
たとえば自動供給機を貸してもらったうえ、とっておきの魔晶石まで投入してある。であるので、ここから失敗することはさすがにあり得ない。よし。
ほっと息をついた。
これで課題をこなすことができた。次は――。
と、気を抜いたのがマズかったのか。
魔術陣上を網羅した光が陣全体へ広がる。そこまではよかった。
しかしその光が明滅する。
「え?」
光が変化し陣の上を電光が走る。
「ええっ?」
一度ではない、電の走る数がどんどん増えていく。
まずい、と思ったがどうすればいいのか。
想定外のことにためらううちに、ますます電光は激しくなり魔術陣を満たし、直視できないレベルの光量になり思わず腕で目を覆った 。
そして。
満たされた電が魔術陣で区切られた領域を超えた。
と、同時に爆発が起きた。
結果として腕で目を守ったのは正解だった。
爆発で儀式道具と一緒にひっくり返り粉とか液体とかいろいろとひっかぶったのだが、目に入るのを防げたからだ。
せき込みながら立ち上がる。
胸には絶望。
頭には最後の希望という名の現実逃避。
失敗できない召喚儀式。
なのにビリビリバチバチときて。
爆発。
確かめたくないが確かめなければならない。
多分きっとまず間違いなく召喚儀式は失敗しただろう。
でももしかしたら。
万が一。
いや億が一。
なんかうっかり召喚できてるかも! ってそんなわけないよねーあああああああああああああもおおおおおおどーしよ。
恐る恐る魔術陣のあった方に目をやる。
そこには――。
くすんだ色のシャツとかぼちゃぱんつを身に着けた金色の髪の幼女が布を一枚抱きしめて横たわっていた。
「居たー!?」
まさかの。
まさかまさかの。
召喚成功。
思わず握った拳を掲げる。いよっしゃらあ。
もうだめかと思ったが何とかこれで首の皮一枚つながった。
何はともあれ召喚さえ成功すればあとはなんとかなる。多分。
いやまてまて。
人間を召喚するのはまずかった気がする。法律的に。
幼女を見る。
血の気が引く。
と、そこで気づいた。
幼女の耳がとがっている。これは。
「ああ、なんだエルフか」
胸をなでおろす。よかった。人間じゃなかった。
そもそも魔術陣の方で人間は召喚できないようになっているはずなので。うん。心配とかしてなかったし。
まあいい。
ともかく召喚できたのだから、儀式を完遂しなければならない。
しかしこの幼女、横たわったまま動かない。
生きてるよね?
「うーんむにゃむにゃ。もうたべられないよ」
生きてた。
死んでたら扱いに困るところだった。
ともあれ、最後の仕上げを終わらせなければ。
魔術陣の制御部を踏み、手をかざす。
『我、魔術士メルエールの名においてを――』
と、魔術語の詠唱をはじめたところで。
幼女が目を開いた。
ガバっと跳ね起きてあたりを一回り見回し、こちらをみる。
目が合った。無視して進める。
「ここはどこ? わたしはうさみ」
『汝に名を与える。汝が名は、うさみ……ってあああああああ!?」
つられた。
超かっこかわいい名前を付けるはずだったのに!
以上が魔術士メルエールによるエルフのうさみの召喚儀式の様子である。
なおこの後、儀式室が爆発でえらいこっちゃになっていたことで、めちゃくちゃ怒られた。
異世界転生初心者の1と3の間の話だと思いました。たぶん。