剣初心者うさみ 28
「わりと楽しい」
「わかる」
「ですわ」
全会一致だった。
修練は球を投げ合い、受け止めるところから始まった。
はじめは近距離から優しく投げ、宙に在る間に手で捕捉する。
徐々に距離を広げ、投擲の型を身につけながら、飛来する物体への距離感、速度に対する対応に慣れていく。
投げる際には胸元を狙うのだが、すっぽ抜けたり手を放す機を逸してうまくいかないこともままある。こういった想定外の動きの球をどう受けるかも大事である。止められなければ球の勢いがあるほど遠くまで取りに行かねばならない。
そして当然だが、左右両の手で投擲、受け止めを行う。
一距両疾流は手の左右を選ばぬそうだ。
これには以前からの剣の修練外の修練が役に立った。
左右の体の使い方をなじませることそのものに慣れてきていたのだ。
次に近距離から優しく投げる球を木剣で捉える修練だ。
素振りの型を崩さず宙に在る球を打つ。
剣の打突部にうまく当てるのにコツが必要だった。
当たり方がうまくないと手ごたえが悪く、ああ、これはよくないなとわかる。
逆に球の真芯を捉えると、快感といってもよい感覚があった。
さて、慣れてくると新たな段階に入る。
ここまでは投擲する側も受ける側、打擲する側がやりやすい位置に向けて投げていたのだが、ここからは違う。
球をぶつけることを狙うようになるのだ。
剣を持つ側は鎧と兜を身に着ける。
鎧は、最初は楽しみだったが慣れてくると重いし動きを阻害するし視界も狭くなるしで邪魔である。
話を戻す。
剣を持つ側鎧を着た上で、移動範囲を地面に描かれた半径一歩程度の円のうちに制限され、投擲される球を受けるのだ。
修練の段階によってかわすのも許される場合と剣のみで対処しなければならないものとある。
投擲側は剣で打たれてはならない。つまり基本的には剣の届く外から投げる必要がある。ただし移動はなしの基礎修練と自由の応用修練に分かれる。
自由の場合、より遠くから投げてもよいし、一時的に剣の範囲に入るのも構わない。もちろん円を回り込んで隙を探すのも基本だ。
これも修練によって段階的に決めごとがあり、投げる勢いの制限、持ち球数、投擲側の人数、球の回収のあるなしなど多岐にわたる。
「では今日は、投手二持ち球四回収あり下投げ回避あり剣打退場読み上げ百で行うとしよう」
投擲側は投手と呼ばれ、迎撃側は打者と慣例的に呼ばれている。
つまり師範代が言ったのは、鎧を着た打者一人に対し、投手が二名、球を四つ持ち、一度投げた球を回収して再度投擲することは認められ、投げ方は下投げに限定、体さばきによる回避は許可され、投擲手が剣で打たれると退場、百読み上げる間に迎撃手が何回被弾したかを計上する試し合いを行うということになる。




