剣初心者うさみ 27
ちくちくちくちく。
ちくちくちくちく。
今日は裁縫をしていた。
「机を削って木剣を作ったり、ぼろきれや古い革を縫って球を作ったりここは本当に剣の道場ですの?」
言いながらも一番手際がいいのがミーナである。
ヤッテ家の従者は家事万能ですの。
心なしか自慢げにそう宣言しただけのことはある。
得意不得意はあれ一通りは抑えるのだそうだ。
「裁縫は得意ですの」
「じゃあ、何が不得意なんだ?」
「りょ、料理ですの」
布を使う分を速やかに終わらせて革を太めの針と糸で貫きながら答えるミーナ。
口調は恥ずかしげだが動きも表情も揺らいでいなかった。
「最低限裁縫ができれば、出先で簡単な防具の整備なんかができるようになるからね。生存につながる技術はしっかり身に着けておいてね」
「はい」「うす……はい」「ですの」
おしゃべりを窘めるような絶妙な間で師範代がにこやかに口を挟む。
こちらはいかにも武闘派ですという顔なので笑ってもちょっと怖いことがある。例えば修練中におしゃべりをするという後ろめたいことをしたかなと思った時などは。
さて、この裁縫で作っているのは玉、もとい球である。
手で握れる程度の大きさのものだ。
しっかり縫わなければすぐ壊れてしまうからと言われ、力いっぱい引っ張った結果、布が破れ糸がちぎれるという失敗をした者もいたが、ひとまず無事に丸っぽい形はできるようになった。多少歪でもまあよし。
球の内部には木片を芯としてぼろ布や糸をぐるぐると巻きつけ、球形にしたものを詰めてあり、強くぶつけると痛い。逆に言えばよほど強くぶつけなければ怪我などの心配は少ないだろう。
この球で何をするのかというと、ぶつけるのだという。
投擲の修練である。
剣の道場とは一体……などとバルディは思いかけたが、意味はあった。
飛来物を斬り払う修練を行うのだそうだ。
その修練で使う飛来物は三人のうち二人が投げる。
投げることで腕や肩を痛めないように正しい投擲の作法を学ぶ。
斬り払う力が強いとよく球が壊れるので作り方を学び自力で補充できるようにし、同時に防具の修繕に必要な前提技術を学ぶ。
正直だいぶ迂遠だなと思ったが、道理は通ってはいるので口には出さなかった。
向かい合って打ち合う修練はまだ先らしい。チャロンがうずうずしていた。




