剣初心者うさみ 22
「次の、先輩方というのは」
しばらくの沈黙の後、バルディは話を進めるために問うた。
この際だから全部聞いておこうというわけである。尋ねるは一時の恥に過ぎないと覚悟を決めた。
「それはね、君たちの先輩も、同じような経験をしているからだよ。少なくとも全員がはじめっから両手を自在に扱えたわけないよねえ?」
「あっ」「確かにですの」
先輩方にも習い始めはあっただろう。同じように数人ひとまとめで指導を受けてきたはずだ。
そして三人の中で二人が手間取っていることだ。考えてみれば数多くいる先輩方が皆すぐできるようになったというのは確かに想像しにくい。
「先生に言われたとおりにしろとか、我慢してしばらくがんばれとか、言われるのではないですの?」
「そうかもしれないけど、それならそれでいいじゃない。チャロンくんと一緒に行ってみたらいいよ」
チャロンと。
なるほどそれならば、仮にチャロンとの話しがうまくいかなくても、先輩方の話を聞くことでいくらかでも抑えられるかもしれない。多くの先輩がアレは大変なんだよ、と言ってくれたならば、それなら仕方ないことなのだなと感じるはずだ。
そこまで考えて、本来ならば、これはバルディが気付かなければいけないことだった、と思い至った。
人と人を繋いで目的を達するというのは、三人の背景を考えれば、商家の出であるバルディが最も近い考え方を持っているはずだ。
視野を広く、人にあっては柔らかく、侮らず。予断は暴力を武器としない商人にとっては致命的な失敗を呼ぶ。
その観点からすれば今回のバルディは失敗だ。考える時間が短かったというのもあるかもしれないが、ミーナですらバルディに相談するという行動をとったというのに。
仮に跡継ぎの兄が似たような失敗をすれば父に厳しく叱責されるだろう。店を潰す気かと。
「まあ失敗は、というか、聞いて答えてもらえるのは若い子の特権だから。存分に先達を頼るのがいいよ。そのために集まって同じことを学んでるんだし、みんなもそうやって成長してきたんだよ」
思考に沈みかけていたバルディを、うさみの言葉が牽き戻した。
励ましているようにも聞こえる。気を落としたと思ったのだろうか。そうしたのはうさみなのであるが。
とはいえ考え違いに気づかせてもらったのだ。礼は出ても恨みに思うことはない。
全部やればいいのだ。チャロンに話をして先輩に話を聞き、先生に相談する。最後の一つはお勧めしないというのだからきっと不要だろう。
やるべきことは見えた。
「ありがとう、うさみ」「ありがとうですの」
バルディとミーナの声が重なった。
うさみがにこりと笑う。月明かりに光る金色と透き通るような白、そして深い森のような緑がきらめいた。
「どうしてもだめならまた話を聞くよ。ああ、もう暗くなっちゃったね。送って行こうか?」
丁重にお断りした。一番ちっちゃいのが増えても、例えば物取りや人さらいに襲われる可能性は変わるまい。
それにササッと帰ればそうそう危険などない。慣れた道である。
しかしうさみは、道場に話をつけて、本職が巡視の先輩をつけてくれた。
バルディはありがたくも過保護にも感じた。
それにしても。
本当に金銭神官のようなことを言う人だなと、改めてバルディは思ったのだった。
その一方で一日中道場におり実践しているようには見えない。
知らないところで活動しているのだろうか。




