剣初心者うさみ 21
「残り三つは、チャロンくんに相談する。君たちの先輩に相談する。わたしが教える。ただ最後の一つはお勧めしないかな。わたしは門下ではないから、ハンくんに不義理に当たるだろうから」
「チャロンに」「先輩ですの?」
「そう。交友を広めてお互いを認め合いともに利を得るべし、とね」
「それじゃ金銭神官じゃないですか」
うさみが告げたのは、バルディとミーナにとっては盲点といえる内容だった。最後は除く。
「チャロンに言っても理解できないのではないですの?」
「さして苦労せずできる人はできない者を理解できないといいますし」
ミーナが暗にチャロンにミーナの家の都合など理解できないだろうと言った。
バルディはそれだと聞こえが悪いので言葉を付け加えて話の方向を変えようとした。
「そうだね、チャロンくんは蟻人族の血が入っているから、土台が違う。チャロンくんは腕が二本だけど、虫系の種族は腕が四本以上の人も多くて、純血の蟻人族も四本の腕を自在に操るもの。複数の腕を扱うのは種族として得意、というより、二本を自在に動かす程度はできて当然の能力なんだよ。荷運びで寮の手を使うことも有利に働いているかもしれない」
「そうなんだ」「ですの」
ですのはいいとして。
蟻人族はそうなのか、また一つ新しいことを知った。
とバルディが油断していると、続く言葉で先ほどの気遣いが意味がなかったことを知ることになった。
「だから確かに君たちの苦悩はわからないかもしれないけれど。でもね、それとは別にチャロンくんがミーナちゃんの都合を理解できないだろうと判断するのは早計だし、むしろ歩み寄りが足りないんじゃないかな」
「それはどういう……!……ですの」
カッとなったらしいミーナが、語尾をつけ損ねた、と思いきや、あとから強引につけてきた。
ミーナは貴人に仕える家人。バルディは様々な相手との付き合いがある商家の出身。
対してチャロンは港の荷運びだ。
生まれの差からくる教養の差は否定できず、また異なる階級の常識を知る機会も想像しにくい。
なにより、普段の態度、問題となった態度である。
理解できるなら、そもそもこの問題は起きていないはず。
ミーナもバルディも自然とそう考えていた。
しかし。
「言わなきゃわからないときもある。言えばわかるかもしれない。わからなくても別の方向で解決の道が生まれるかもしれない。言葉にするのは大事なことだよ」
これも金銭神の神官がいいそうなことであった。商家出身のバルディなので、接したこともあるのだ。
交流と利益、それを得るための言葉。商人の領域だ。
そういう意味ではバルディはうさみが言うことに一理あるように思えてきた。
仮に敵対していたとしても話して取引をして利益を得るのが商人だ。
一方ミーナは黙り込む。何か考えている様子だった。
「それにね、すぐに解決に至らなくても、話しておくことは大事だよ。放っておくと、今回のことが別の方向から解決したとしても、同じような状況になったら同じように困ることになるよ」
「う、確かにその通りですの」
そうだ、順調に行けば長い付き合いになるはずなのだ。
利き腕と、逆の腕との問題がどうにかなっても、将来なにかでまたチャロンが一歩先に進むようなことがあれば、再燃するだろう。
できるかどうかどころではない、どうにかしないといけなかったのである。




