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使い魔?うさみのご主人様 32

 その話を聞いた時、メルエールは首をかしげて動かなくなった。


 話の相手は同じ教室のかわいい使い魔愛好会の一人、ウサギの使い魔を連れている子だ。


「黒森子爵嫡子様とリリマリィ様がお付き合いを始めたんですよ」


 学院生同士が恋愛関係になることはある。

 誰と誰が付き合っているとか誰が誰を好きだとかのうわさ話は、友達がいなかったメルエールの耳にも入ってくることはあった。

 本当に耳に入るだけで自分が話題に参加したのは初めてだったが、ともかくその程度には普遍的なことだ。

 政治的に問題がなければ卒業後や、あるいは在学中でもそのまま結婚することもあるらしい。

 爵位の差も、一つ違うくらいならさほど大きな障害にはならず許可が下りる。

 結婚の許可を出すのは王家であり、その前段階で取りまとめるのは各貴族の寄り親で、と貴族同士の結婚はそれなりに手続きが多いのだが、見合いで決めるのもやることは大差ないので、寄り親によっては自分で相手を見つけてくることを喜ぶものもいる。


 メルエールは家の都合でもしそういうことになっても保留しておくように指示されているため、結婚だのの心配はまだ必要ないのだが。


 さておき。


 メルエールがあれれ―? となったのは、もちろん事前にワンワソオ黒森子爵嫡子がメルエールに惚れているという情報をうさみに吹き込まれていたからである。

 それがこの数日のうちになんでリリマリィとお付き合いすることになっているのか。

 いや、それが悪いわけではないのだ。

 むしろ都合がいいかもしれない。

 なんせ、メルエールからすればワンワソオは嫌がらせをしてくる自分より立場が上の人という認識だったのだ。

 できれば関わりたくない相手。

 それがワンワソオ黒森子爵嫡子。


 しかし、そのワンワソオが自分のことを好いているとそう言われた。

 メルエールははっきり困った。

 愛情表現があれだというのか。

 だとすれば厄介な話。

 立場的にも原因的にも断りにくい。

 それはそれとしてちょっとだけ惚れられているといわれてドキッとしたりなんかして。ちょっとだけよ?


 しかしまあどうやって逃げようか。

 そういう経験はないし余裕もないメルエールはここで思考停止して身動きを取れなくなっていた。


 そんなところに今回の話。

 別の令嬢とくっついただと?


 いや、いいんだけど。

 いいんだけどね。

 なんか釈然としない。

 なんでこうなったの。


「これで黒森子爵嫡子様もメルエール様にちょっかいを出してこなくなるといいですわね」


 首をかしげて思考を空回りさせていたところに、そう言われ。


「そ、そうですわね。うまくいくことを願いますわ。おほほほ」


 メルエールはなんとかそれだけ言葉を返したのだった。

 一方うさみはウサギを抱っこしてうとうとしていた。





 □■□■□■□■





「最近こんなことばかりだけど、何から言えばいいのかわからないわ」


 一日が終わって自室に戻る。


 勉強会ではリリマリィは今までと変わらず、ほんわか笑顔だった。

 ワンワソオのことを訊こうかと思ったのだが、なんといえばいいのかわからず結局聞けずじまい。

 ワンワソオがメルエールに惚れているという噂が一度流れているのだ。

 そしてその噂はメルエールの耳には入っていないことになっている。なぜか。

 このややこしい状況から、リリマリィになんと訊けばいいのかわからず。

 他の誰かが話を振ってくれないかと勝手に期待していたのだが、メルエールがワンワソオを嫌っているという話も出回っているせいか、メルエールの前でワンワソオついて必要以上に踏み込んだ話はされなかった。


 結局よくわからないまま一日が終わったわけだ。


「ねえうさみ、あんた、なるようになるって言っていたわ。あれはこういうこと?」


 うさみがワンワソオにメルエールに惚れてるならやり方を考えろみたいなことを言った例の件のあとに、頭を抱えるメルエールにうさみはあっさりとなるようになると言ったのだ。

 まさかこの結果を予想していたのか。

 メルエールは全く予想できていなかったのに。

 というか普通予想できるのこんなこと?

 いや待てよ。

 もしや、ワンワソオが好きな子をいじめちゃう系男子だというのがうさみの嘘だったのでは。

 そうだとすれば周りを騙しつつ、この状況を予想することも……いや、何のためにそんなことするの。なんの意味が。


 相変わらず一人で考え込むメルエール。

 そんな姿を見て、うさみは肩をすくめてやれやれという身振りをしたが、メルエールが見てなかったのでちょっと肩を落とした。


「こういうことが何か知らないけど、リリマリィ様が大きな犬の使い魔を気にしていたのは知ってたよ」

「え?」


 使い魔?


「あの人犬好きだよね。わたしが撫でるの断ったときショボンとしてたし、部屋で勉強した時に犬がわたしにじゃれつくの止めてくれなかったし。あ、愛好会の他の使い魔とかもかわいがってるけどやっぱ自分の使い魔は別格なのかなとか思ってたけど、おっきい犬もよく見てるんだよね」

「え、いや……まさか、え?」

「かわいい使い魔愛好会作るのに一番動いたのってあの人だし、なんていうかすごいやり手っていうかほら、結成に公爵令嬢様とか巻き込んでるじゃない? すごいよね一日で話つけて」


 なにそれ知らない。

 公爵令嬢様って、え、あのぐるぐる髪の人? まだ直に話したことないんだよね。みんな気を使ってるから偉い人だとは思ってたけど公爵家の方でしたの。……嘘だあ。だってあたしあの時寝てたじゃない。許されざるよ?


「メルちゃん様もっと周りの人のことをさあ、気にしよう?」


 言葉もなかった。

 メルエールはリリマリィが犬狙いなのではという仮説について問いただす前に、知らないうちに広がっていたかわいい使い魔愛好会の構成員についてうさみに教わることになったのだった。

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