剣初心者うさみ 20
「なるほど。そういうことなら、とりあえず四つ思いつくかな、解決策」
バルディとミーナが一通り事情を伝えると、うさみは右手の親指だけを折って二人に示しつつ、あっさりとそう言った。
「四つも」「ですの?」
バルディは、ミーナの“ですの”ずるくないかと思いながら驚いた。
人の言葉に合わせて“ですの”と言っておけば、なんとなく存在感を主張できるのである。
もしやミーナの主はそこまで考えて語尾にするよう指示したのだろうか。
そんなわけはないか。だってヘンだもの。返事を“ですの”で済ませる部下はちょっと扱いづらそうである。大事にしまっておくならまだいいかもしれないが、偉い人の前に出せないのだ。失礼に当たる。
いつになったらミーナの主家の方々は矯正してくれるのだろうか。
驚いたのはミーナのことではないので話を戻す。
二人で頭を悩ませた問題に瞬く間に四つの解を思いついたと言ったのだ。
このちっちゃいエルフは。
いつも語ってくれる様々な物語などを聞いていれば、その真偽はともあれ見た目以上に頭が回る少女であるとわかっていたが、こうして差を見せられるとやはり驚きが先に立つ。
えっへっへと笑う自分よりちっちゃな少女がずっと年上であるというのは、なかなか実感しにくいのだ。
「まあもったいぶってもしょうがないから全部教えてあげよう。遅くなるとよくないしね」
「ありがとうございます」「ですの」
ですのずるい。
「まず一つは、君たちの先生方に相談すること。これが一番簡単で角も立たないよね」
最初の一つは思った以上に真っ当な選択肢だった。
道場で修練の範囲のことで困りごとがあれば先生に相談する。順当だ。
意外性がない。
だが。
「それをすると、なんだか告げ口してるみたいですの。それに私の問題ですの」
「それに、じっくり頑張りなさいと言われて終わりそうですね」
それを考えなかった理由が、ミーナとバルディなりにあったのだ。
大人を頼るのは、そう、ズルい。そういう気持ちもある。
そしてミーナ個人の問題であり、きっとバルディに相談したのも相応に考えた末のことだろうとバルディは思う。
また、道場の方針では当面は素振りである。仮に二人が利き手と逆の腕を同じ程度にうまく使えるようになったとしてもだ。
それは自分たちの少し上の先輩方の様子を見れば予想がつく。
である以上、先生方は大人特有の、長い目で考えるという方針を取りそうなものだ。
「それは先生を甘く見ているんじゃないかな。おうちの都合を汲むくらいはしてくれるだろうと思うけれどね。そこまでが指導者の仕事の範囲でしょう。子どもが大人を頼るのは悪いことじゃあないんだよ?」
「うーん」
うさみに子どもがどうと言われると指さしたくなるがバルディはこらえた。
そしてバルディが横のミーナの様子をうかがうと、渋柿でもかじったような顔をしていた。
「まあ、まだひとつめだからね。次に行こうか」




