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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
剣士編

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剣初心者うさみ 16

 先輩チャロンは蟻人族の血が入っているらしい、というのは本人から聞いた話だ。


 蟻人族は女性がほとんどで女王を中心とした社会を作っており、剣の街が属する人族の連合と二百年ほど前に接触、当然のごとく戦争となったことがある。

 結果は魔物の大襲撃による水入りで、正式な停戦、あるいは和睦はなされておらず、暗黙の了解による疑似的な和平が続いている。

 戦時につきものの血縁的交流もあったために、人族側にも蟻人族の特徴を受け継ぐ子どもが生まれることがある。

 それとは別にはぐれものも稀に出るらしく、チャロンの場合はこちら経由で蟻人族の血が入っているのだそうだ。


 蟻人族は頭に触角があり、小柄で力が強く体力もある。

 チャロンはやや小柄で浅黒く触角は持っていないが、力持ちで体力もあった。

 それを生かして港で働きながら、剣聖を目指して道場に通っている。

 朝一番が最も忙しく、お昼からがもっとも都合がよいのだそうである。



「毎日毎日素振りだなー。早く剣で打ち合いたいぜ」

「まだ素振りの型を全部覚えられてないよ」


 そんなチャロンはよく愚痴をこぼす。


 バルディとチャロンとミーナは三人一組で扱われ、修練の合間の時間に以前よりも話すようになっていた。

 口火を切るのは大体チャロンである。

 思ったことを遠慮なく口にするたちで、その日の修練の感想だとか、その日あったことだとか、あれこれ喋る。

 港であったことや噂話などはバルディとしてもなかなか興味深く聞いているが、やはり修練についての話が多い。


 今日も修練が終わり、雑用をしながら修練のことについての話となった。


「それな。お前らも覚えないとだめだからなあ」

「それはごめん」

「謝ることはないですの。先生も私たちの方が普通と仰ってたですの」


 一距両疾流では最初に右手、左手、両手持ち、二刀の四つからそれぞれについて五つずつ、合計二十の型を覚えなければならない。

 最初にである。

 一度に教えるのは、一つずつだとそれに偏った癖がつくからだという話だった。

 中途半端になりそうにも思ったが、先生方の言うことだから間違いないはずである。


 木剣による素振りを一通り覚え、全員が一定の水準に達したら次の段階に移ることができる。と師範代に言われている。一蓮托生である。


 そして意外にも、というと失礼かもしれない。

 今のところ、最も覚えが早いのはチャロンなのであった。


「特に左手がなかなか」

「私は右ですの」


 バルディとミーナは、利き腕とその逆の腕の差に特に苦戦していた。

 一方チャロンは割とすぐに、師範代の見本を真似ることが出来た。

 チャロンが生まれつき両利きだったというわけではないらしい。右利きなので。


 なんにしても、チャロンがもっともよくできて、バルディとミーナが相対的に遅れているという状態になっているのは違いなく。


「早く次に進みたいぜ」


 と、言うのも無理はない話だった。

 もちろん、言われる方がそれについてどう思うかは別の話だが。

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