剣初心者うさみ 14
「君たちには三つの道がある。剣士にクラスチェンジする道と、一距両疾流剣士にクラスチェンジする道、そしてクラスチェンジしないで剣を学ぶ道である」
師範代に呼び出されたのはバルディを含めて三人。皆、若葉組の門下生であり、バルディの先輩である。
バルディより先に入った二人と同時なのはバルディの成長が著しいから、ではなく。
指導の都合だそうである。
一人ずつ参加やるよりまとめてやりたかったと。
同じ程度の進捗のものがいたほうがよいとも。
そんなわけで、段取りの説明を受けているのである。
「一距両疾流剣士は剣士の亜流であり、流派の祖から我々の先達が磨いてきたクラスだね。我らが道場ではこちらを前提として教えている。ただし、剣士でも教えることは可能だ。もちろん、剣士以外のクラスであっても教えることはできるが、その場合、のちの選択肢が梅組になるからね」
「どう違うのですか」
「それはだね、そもそも剣士は戦士の派生であるわけだが――」
師範代の語るところと、バルディの持つ一般常識を合わせてまとめると。
まずクラスというのは、過去の人々が練り上げた雛形である。と、言われている。具体的には神殿がそう主張し、実際に観測されたものを検証した結果確からしいと認められている。
クラスはその領分であるとされる行為を行うことで鍛えられ、その度合いによって能力が底上げされるのと、クラスごとに違ったスキルを取得できる。さらにそうして獲得したスキルは、そのクラスでいる限り鍛えやすいという。
クラスを変えることをクラスチェンジといい、クラスチェンジによって底上げ分がなくなり能力が低下することも確認されている。
また、一部のスキルも使用不可能になるらしい。代表的なものは神聖魔法である。
クラスを得るにはいくつか方法があり、一定の練度のクラスの持ち主に教わるか、地力で関係する行為を重ねるか、あるいは他のクラスを鍛えることで新たに変更できるようになる場合もあり、あるいはクラスチェンジを扱う神殿がどこかに存在するとも言われている。
そして、新たにクラスが生まれることもある。
武器を手に戦うものである戦士から、剣の扱いに特化したものが生み出したのが剣士である。
さらに二刀剣士だとか、大剣士だとか様々な派生クラスが生まれている。
そして一距両疾流剣士も剣士から生まれたクラスであり、その名の通り、一距両疾流の先達が鍛え上げてきたクラスというわけだ。
大本の剣士の方が母数も歴史の分より完成度が高く、極めた場合高みに至ることが出来るかもしれない。
クラスは、過去の誰かが辿り着いた場所までしか導いてくれない。
そこから先は、自ら切り開き、そのクラスの先達となるのである。
「とはいえ、人類史上屈指であろう天才が切り開いた最先端までたどり着くことだけでもどれほどの研鑽が必要かはわからないほどなのだから、もう少し近くを見るべきだろうね」
「先生、俺剣士がいいかなって」
「まあ待ちたまえ」
あまり一距両疾流剣士を選ばせようという熱意が感じられないような話の流れに、先走った先輩が剣士がいいと言い出して、師範代が止める。
「剣士は、基本が剣と盾を持つか、剣だけを使う戦形だ。しかしね、我が一距両疾流剣士は、臨機応変に剣を使い分ける。両手で持ったり、複数持ったりするわけだね」
「二刀流!?」
「二刀は我が流派では必修だね」
二刀流なら二刀剣士でいいのではないか、とバルディは思ったが、先輩の一人はとても興味を引かれたらしい。
「それから、状況に応じて最善を尽くして生き残ることを主眼にしているので、剣以外の部分も早くから鍛えられるね。気配を感じ取り、そこだ、とやったり、飛んでくる矢を斬り払ったりね」
「先生、俺一距両疾流剣士にする!」
先ほど剣士がいいと言った先輩は気が変わったようだ。
飛来物を斬り払うのはたしかにカッコいいとバルディも思う。
しかし、もう一人の先輩がここで手を挙げた。
「先生、多くのスキルを覚え、鍛えようとすると中途半端になると聞きますが、その点はどうですの」
これも常識的な話であった。
手を出しすぎると器用貧乏になるので一つのことに打ちこむ方がよい、というのは定説の一つだ。
「うむ、それはだね。若葉組の君たちは知っての通り、体ができるまでは無理をさせないといっただろう? その間に覚えてもらうわけだね」
一距両疾流剣士の範疇で広く浅く鍛えることで、クラスの研鑽と基礎固めを並行して行う一挙両得の手法なのだそうである。
さらに言えば、道場で教える内容は変わらないため、剣士でも同じスキルを鍛える。
その場合、クラスの鍛錬への支援効果が重ならないものもあるため、その場合も一距両疾流剣士として鍛えてから本格的に剣を鍛える段階で剣士にクラスチェンジしなおす方が効率的である場合が多いということだった。
「ともあれ、一晩考えてくれたまえ。明日答えを聞いてクラスチェンジをするからね」
こうしてその日は解散となった。




