剣初心者うさみ 13
翌日から、バルディはおジョウさんの目を盗むようにうさみに話しかけるようになった。
まるで間男のようなやりようだが、おジョウさんが拗ねると様々な面倒が目に見えている。
はじめて話しかけた時には、先輩方はおいおい大丈夫かという目で見守ってくれたものだが、何度か繰り返し、大丈夫らしいと認識されたあたりで、彼らもうさみに話しかけるようになった。
話してみると、うさみというエルフは気さくでよく笑う人好きのする人物であった。
おジョウさんがあれほど懐いていることを鑑みれば当たり前かもしれないが、道場の隅っこで一人孤高を貫くような人柄ではないように思えた。
面倒見がよく、どこか母親を思わせるようなまなざしでバルディたちに向けることもある。
“たち”である。
おジョウさんや師範代も含む。
まさかと思うが、師範代よりも長く生きているのだろうか。ありえないとは言い切れない。
さらに、様々なことを識っており、話をすることも嫌っていないようで身近なことから、想像もつかない不思議な話まで語ることもあり、そんな時は大変盛り上がる。
さて、皆がこいつ結構面白いなと認識するころには、おジョウさんも気が付く。
うさねーさんがみんなにとられたと。
という表現は多分に婉曲的であるが、バルディが最初に予想し危惧したおジョウさんの心情はのとおりであった。
そうして実際にうさみが門下生と談笑するところに出くわすと、おジョウさんは案の定、拗ねた様子を見せたのだった。美形というのはずるいもので、ふくれた顔も好意的に受け入れられがちである。
半ば追い散らされるようにうさみから離れる門下生たちだったが、いままでうさみを遠巻きにしてきたこともあり、また現在も目を盗んでの交流といういささか後ろめたさもありで、刺して気分を害することもなかった。
こっそりやった悪戯が見つかっちゃった、てへ、くらいのものである。
そういった皆の態度もおジョウさんの気持ちを揺さぶったのだろう。
しかしそれは、バルディの知らないところで治まった。
ハン大先生か師範代、あるいはうさみ本人あたりに窘められたのか、もしくは自力で妬心に打ち勝ったのかもしれない。
どちらにしても、おジョウさんは成長したのだろう。
うさみを囲む輪に自然とおジョウさんも混ざり、大げさな妬心を面に出すこともなく自然にふるまうようになってしまえば、もともと立場的にも性格的にも道場の中心的人物であるおジョウさんが輪の中心になるのは自然なことで。
最終的には、初めからこうだったと思える姿に落ち着いたのだった。
このような日々を過ごすなかで、バルディもまた成長を重ねていた。
ついに修練が次の段階に入ったのである。
入門してから丁度月が二度、満ち欠けを繰り返した翌日であった。




