剣初心者うさみ 12
「おジョウさんはちょっと独占欲が強いのだね。お気に入りの友人が他の人と仲良くすると嫉妬してしまうわけだ」
「ははあ。それほど大好きなのですね」
修練ののちに、師範代と雑談した際におやつの時間にあったことが話に上がった。
バルディにも覚えはあるしそういう心持になることはある。
親や周囲の大人が長兄や次兄が優遇されているように思えたり、妹がかわいがられているところを見た時などだ。
おジョウさんほど表に出さないけれども。
「では、うさみとはあまり仲良くしない方がよいでしょうか?」
それはそれで、うさみが孤立することになるのではなかろうか。それは果たしていいことだろうか。バルディは首をひねった。
おジョウさんはいるので孤立というわけではないか。
そもそも弟子ではなく食客で修練内容も違いあまり見かけないエルフである。立場も行動も種族も違うのだから特殊な立ち位置になるのも当たり前のことかもしれない。
事実として、全体から浮いている。
「君はどう思うね?」
師範代に質問すると質問で返されることがよくある。
まず自分で考えてみろということだろう。
バルディも考えてないつもりはない。が、雑だったり深くなかったりすることはままある。
そんな時に質問返しをされるとくやしい気持ちになるのだった。
「ええと、自分のことだけを考えると、知らないことを知っている人と話すのは楽しいし、あまり見ない特徴を持っている方ですし、仲良くしたいところですが」
知らないことを知っているのは武器である、と商人である父は言っていた。
商人の武器は知識と経験と口と人脈と、あとなんだっけ。
いろいろある中の一つだ。
バルディは商人ではなく剣士を志しているわけだが、商人の子ではあるし今まで受けた薫陶が消えるわけではない。異なる視点は役に立つとも言われているし、実際帳簿つけの仕事をもらえているわけで、剣士を目指すとしても商人の目は大事にしようという所存である。
その上で見ると、うさみの持っている知識とうさみ自体の希少性はこの道場ではとびきりだ。
条件だけを見れば新たに縁を結ぶ相手としてみると有望だろう。
個人としては付き合ってみてからのことである。
しかし。
「先ほどのおジョウさんの話からすると、あまり仲良くすると気を悪くするかもしれません。そして現在、僕の知る範囲ではおジョウさんを除いて誰かと懇意にしている姿を見ていません。これは道場の意向でしょうか。それとも何となくそうなっているだけなのでしょうか。どちらにしても、おジョウさんの気分を優先するか、自分の欲を優先するかになってくるでしょうか」
「なるほど、そうやって天秤にかけるわけだね」
「天秤、あー、そう、ですね」
髭をしごきながら師範代が言った言葉にうなずく。
天秤は商人もよく使う道具である。
物の価値を測り比べることを天秤にかけるというのなら、いまバルディはなにを比べているのだろう。
「では天秤を傾けてみるとしようか。おジョウさんはもう少し嫉妬の心を押さえられるようになるべきだと思うのだね。年頃でもあることだし、情の篤い娘は魅力的ではあるけれど、武の道に過剰な妬心はあまりよろしくない」
「ええと」
「加えて、うさみと交流する権利は皆が持つべきだろうね。あれも変わった人材であるし、皆の視野を広げるのに役に立つことだろう」
天秤が傾いた。
そうまで言われれば、遠慮はいるまい。
折を見てまた、うさみに話しかけさせてもらうとしよう。
バルディは決めた。
ただ。
「ただですね、おジョウさんとうさみが仲良くしている姿をみると、なんだかこう、形容しがたい、ぽかぽか、というほどではなく、ほわほわ? うーん、もっと見てみたいような、そう思うのもおこがましいような、少し気分がよくなるような、そんな感じがするので邪魔したくない気持ちもあるんですよね」
「わかるわ」
わかるらしい。




