剣初心者うさみ 11
さらに翌日。
おジョウさんはすっかり元気になって門下生の世話を焼いていた。
師範代の言う通りになったが、原因の一角であり、おジョウさんの異変を気にしていたバルディとしては肩透かしであるのと、若干の納得のいかなさを感じていた。
ちょっとだけだ。
勝手にへこんでいた人が勝手に元気になっただけなのであるから、原因に無関係ならよかったねで終わるところであり、そうでない今回でも、ほとんどはよかったねどまりである。
なのでそれはひとまず置いておいて。
気になったのが謎のエルフ、うさみであった。
道場に出入りしている、というか、バルディの知る限りずっと道場の中にいるのに、門下生ではなく食客であるという。
道場が食客を囲うというのもあまり聞かない話である。
なにより、おジョウさんがあれほどべったりとくっついている姿を見せられたら気にならないわけがない。
以前に一度尋ねた時も、おジョウさんの方はずいぶん入れ込んでいる様子だったが、今回うさみのほうもそれを受け入れているらしいことがよく分かった。若干食傷の気配も感じたが。
あの時の様子は、仲の良い姉妹のようだった。そしてちっちゃい方が姉に見えた。
その奇妙な、しかし悪いものとは思えない不釣り合いさのせいだろうか、バルディは今まで感じたことがない何かを心の奥で感じたのだ。
それがなんなのか、バルディにはまだわからなかったが、結果としてエルフうさみに改めて興味を持ったのである。
ということでおやつの時間に紹介してもらった。
「紹介するの忘れていたわ。うさねーさん、新弟子のバルディ君。内向きの仕事も手伝ってもらってる有望な子よ」
「よろしくお願いします」
「こちら、うさねーさん。あたしのお姉さんみたいな人よ。怒ったら怖いわよ」
「いやいや、怖くないよ。よろしくどうぞ」
「うさねさん?」
「うさみです」
おジョウさんはうさみが絡むと少し子どもっぽくなるのではないか、とバルディは感じた。
それもまた胸の奥で何かが、ではなく今は関係ないのでおいておく。
事前に聞かされていた名前と違ったので思わず確認したが、うさみで合っていたようだ。
丸い焼き菓子を両手で持ってさくさくと食べている姿を、おジョウさんが嬉しそうに見つめている。
こうしてみると見た目通りおジョウさんの方が姉に見えるが、本人はちっちゃなエルフを姉のような人と言った。
「エルフが見た目通りの年齢ではないというのは本当なのですね」
「こら、女の人に年齢の話はだめよ、バルディ君」
「あ、すみません」
「いや、気にしなくていいよ。個人差はあるけど、人族の十倍くらい生きるから、成長や見た目の変化も違うみたいだね。知ってる限りだと、老衰の五十年位前から老化が始まるかな」
「五十年。数字だけ見ると人族とあまり変わらないかもしれないですね」
「ああ、そうかもね」
話してみると、鷹揚で気さくな人物のように思われた。
見た目は人族ならバルディと同じくらい、つまり十歳かそこらであるのに、大人の女性のような落ち着きがある。その食い違いが妙で不思議な魅力がある。
思わず、エルフという異種族について興味のままに尋ね、少しばかり話が盛り上がってしまった。
死期を悟ると樹に変化して枯れ果てるまで同族を見守る文化があるなど、思いもよらぬ話を聞いて楽しんだ。
そしてふと視線を横にやると、おジョウさんがふくれていた。
ふくれお嬢さんはバルディが自身に目を向けたのを見ると、ぷいと視線を外し。
うさみを抱き寄せた。
まるで所有権を主張するような姿であり、子どもの癇癪のようにも見えた。
うさみは困った顔でおジョウさんの頭を撫でた。
それをみてバルディは、いいね、と感じた。
そしてそう感じた自分を不思議に思ったのだった。




