使い魔?うさみのご主人様 31
「それと、七日間経ったから特訓はおしまいということで」
「えっ、でも」
うさみが言うと、ぷんすこしていたメルエールの動きが止まる。
実質五日しかやってないじゃない。
二日分損した気分になる。
「緑汁もっとのみたかった?」
「とんでもない」
あんなマズいもの好き好んで飲みたいとは思わない。
思わないが。
「結局あれはなんだったの? 毒じゃないとしか聞いてないわよ」
森の中では全部は聞けなかった。
「ああ、お野菜と薬草とかをすりおろして味を調えなかったものだよ。健康にいいよ」
「なんで味調えなかったの!?」
わざと調えなかったように聞こえる。
というかわざと調えなかったのだろう。
調えろよ自分も飲むのに。
頭おかしいんじゃないだろうか。
「マズいほうが効く気がしない?」
小首をかしげながらの、うさみの主張。
意味が分からない。
どういう理屈……いや感性?
「あと、おどかそうと思って。マズいほうが飲むの嫌でしょ? 失敗したら罰ゲームで飲ませようかなって」
悪魔か。
いやそれよりも。
「あんたもっとまずいものを罰げむ? に使ったよねえ魔力の薬をさあ! 最終的にいっぱい飲ませてさあ!」
「お薬は噛まずに飲み込めば平気じゃん」
ああいえばこういう。
メルエールはなんかもう疲れてきた。
起きたばかりなのに。
何の話だったっけ。ああそうだ。
「五日しかやってないけど、本当にあたし上達したの?」
「うん多分。まほ……魔術を使うのに必要な基礎能力は人並みになってるはずだから、あとの理屈とか? そういうのは勉強して覚えてね」
五日間、そして最後の森の中、練習したのはごく基礎的な魔術だけである。
よくよく思い出すと、結局のところものすごい邪魔されながらがんばってどうにか魔術を成功させるという練習をしただけだ。
これで力がついたのかといわれると実感はない。
だが、練習した魔術は、明かりの魔術をはじめ、一通りまともに使えるようにはなった。
それだけでも、魔術を使えないうさみの指導と考えれば上々の成果ではないか。
多分とかはずとか、ちょっと気がかりだが。
メルエールはとりあえずは前向きにそう考えることにした。
「それじゃあそろそろ時間だし、朝ごはん食べて学院いこう」
「なんであんたが仕切るの」
□■□■□■
三日ぶりの登校だが、メルエールの周りではいくつか変わったことがあった。
まず友達に心配された。
休みの日に魔術の練習をしすぎて倒れたという全部は言ってないが間違ってもいない理由で休んだことになっており、担当のおじいちゃん先生に気を付けるようにと釘を刺された。
普通なら自主練習のために二日も講義を休むようでは本末転倒であるので当然だ。
しかし、メルエールが落第しかけていることは周知であり、これをどうにかするために動いた結果のこと、友達、とくに愛好会のなかでも寮で勉強を教えてくれている面々は、その前向きな姿勢については好意的にとらえてくれていた。
ただし、次は相談するようにと約束させられた。
無茶しないように見張るのだそうだ。
いつのまにかここまで親身になってくれている友達にメルエールはちょっと泣きそうになりながら感謝した。
もうひとつ。魔術の講義で手ごたえを感じた。
正しい魔力の使い方とでも言ったらいいのか、感覚的なことなので表現しづらいが、魔術を扱うコツ、とでもいうものが前よりも認識できるようになったのだ。
あの恐怖と絶望の森の中の特訓の成果と思うと今でもうすら寒いものを感じるが、あれと比べれば落ち着いて邪魔の入らない環境でのんびり魔術を使うことなど簡単なことのように思えた。
もちろん思えただけで、すぐに完璧に使えるようになるわけではない。
しかし何度も繰り返して練習すればできそうだ、とそう思えた。
こんなことは初めてで。
うっかり魔力を使い切りそうになってうさみに止められた。
そして最後。
こればっかりは予想もしていなかったことである。
メルエールの友達の一人であり、かわいい使い魔愛好会の発起人の一人、勉強会も手配してくれた、小型犬の使い魔を連れているリリマリィ西華男爵令嬢。
メルエールに前々から絡んできて、うさみを襲って撃退し、メルエールに惚れているという噂が立っていたワンワソオ黒森子爵嫡子。
この二人がお付き合いを始めたというのである。