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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
剣士編

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剣初心者うさみ 9

 バルディは朝の実家の手伝いを早めに切り上げ、また修練の後も道場に居残る形で帳簿つけの仕事にかかるようになった。

 給金も出ており、月謝と相殺しても小遣い程度の額が残る程度だった。

 仕事の重要性を考えれば少ないかもしれない。

 これは父であるガン屋の主とハン(おお)先生の間で決められたことだった。バルディの年齢と能力を考えると、大金を持たせるのは、教育としても、身の危険としてもよろしくないということで、続くなら給金を徐々にあげていくということで合意したのだ。



 さて、バルディが道場の帳簿をつけるようになって、気になることがあった。


 帳簿が一つしかないのである。

 もちろん部外者のバルディがもう一つの帳簿に関わるのはよろしくないだろうから、バルディが一つの帳簿にだけ関わるようにするのは間違った判断ではないだろう。

 しかし、おかみさんの体調のためにバルディが雇われた、という点を考えるとどうか。

 帳簿を作る手間は一つでも二つでも変わらない、わけではないが、別々に記帳と確認に照らし合わせまですると労力はそれほど減らないのではないか。


 ただ、一応バルディに対して隠しているもう一つの帳簿について、バルディから言及するのはいかがなものか。

 すべて承知のうえでそのようにしているのであれば完全に余計なお世話である。

 そもそも、もう一つの帳簿というのはないものとすべきものだ。

 暗黙の了解、公然の秘密というたぐいのもので、表立って口にするべきものではないのである。

 だから余計な口出しをするのは、はばかられるのだ。


 つまり、気にしないのが正解。


 ……ということはわかっていても、気になってしまうのは仕方がない。


 他所の機密のことであり、父に相談することもできなかった。むしろ、父からは秘すべきことについて知ってしまっても知らせないようにと言われていた。

 秘すべきでない儲け話はいくらでも持ってくるようにとも言われていたが。


 帳簿つけの引継ぎの時も、もっと前、御用聞きの時からおやつをふるまってくれる時まで、感じのいい人で好感を持っていたし、その家族のハン大先生とおジョウさんにも同様だ。

 帳簿つけの大変さは経験していない人にはあまり理解されないだろうし、さてどうするべきか、と悩むことになったのである。


 その結果。


「最近調子悪そうだけれど大丈夫?」


 おジョウさんに気にされることになったのである。

 修練中に上の空な様子を見せたことで、面倒見がよいおねえさんであるおジョウさんが気付いたのだ。

 はじめ、なんでもないですとごまかしていたのだが、問題が解決していない以上、バルディの不調は続くことになる。

 そうなるとおジョウさんも気にするし、バルディも自身が任された重要な仕事の内容を下手に漏らすわけにもいかないのもあり、おジョウさんに相談することはなかったのである。


 最終的に、バルディの様子が変わったのは帳簿つけを請け負った時期からだと目星をつけたおジョウさんが、ハン大先生とおかみさんに相談したのである。


 そして、バルディはハン大先生に呼び出され、先日の客間で話をすることになった。


「最近調子が悪いようだな。帳簿つけが負担だったか?」

「いえ、そうじゃないです」

「ふむ」


 帳簿つけは負担ではない。実家の帳簿と比べると大した量ではないのだ。

 なのでバルディは首を横に振った。


 ハン大先生は少し考えてから何かに気づいた様子で、ニヤリと例の笑みを浮かべた。

「となるとなんだ、ナニから小便以外のものでも出たか?」

「??」


 意味が分からなかったバルディが首を傾げると、ハン大先生は急につまらなそうに眼をそらした。


 とはいえ。

 こうして呼び出されてしまった以上はもうごまかしもきくまい。

 よくわからないが変な誤解をされても困るし正直に尋ねてみよう。


 バルディは思い切って尋ねた。


「もう一つの帳簿はつけなくても大丈夫ですか?」

「なんだそりゃ?」

「え?」

「え?」


 話が通じなかったので、元の帳簿担当のおかみさんを呼んでくることになった。

 その結果。


「ふふふ、うちの帳簿は一つしかないわ。ふふ。そんなに儲かってないものねぇ。うふふ、あはは、うはははは」

「なんだとぅ?」「そうだったのですか!?」


 おかみさんはなぜかツボに入ったらしく、大丈夫かと心配するほど笑っていた。


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