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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
剣士編

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剣初心者うさみ 7

 バルディの朝は早い。

 商家は開店時間はともかくとして、準備には早くから動く。

 店先の清掃、商品の搬入、棚卸と整備、店内の清掃。

 それから帳簿つけまで手伝わなければならない。

 更に余裕があれば御用聞きで街中を回る。

 最近は多少走ってもあまり息が乱れなくなったので手早く回れるようになった。息を切らしてお客様を訪ねるわけにはいかないのだ。

 バルディの立場で奉公人の仕事を奪うのも問題なので、隙間を埋めるような形で雑用を何でも、そしてガン屋の身内として重要な仕事も、どちらも振られるのでやるべきことの内容は多岐にわたる。

 そうやって忙しく過ごしていれば太陽が中天に差し掛かるのはあっという間である。


 昼を過ぎれば、ようやく道場へ向かう時間である。

 初日は朝から訪ねたが、バルディのような通いの門下生は昼以降に道場に入るものが多かった。

 護身程度のたしなみとして学ぶ者などは本業に差し支えがあることは望まない。

 本格的に学びたくとも生業を優先せざるを得ない者もいる。


 一距両疾流の月謝は教える内容によって変わるが、無料ではない。

 たしなみ程度、それなり、本格的と、育成枠に梅組、竹組、松組、若葉組と名付けて差をつけている。

 内弟子になるとまた少し違ってくるが、それはひとまず置いておく。


 バルディは若葉組にあたり、これはつまり体の成長に合わせてじっくりと力をつけるという者たちである。たちといっても十人に満たない。

 彼らはバルディ同様、資産に余裕がある家の出である。

 実家は商人から下級貴族までいるが、三男だの五男だの末娘だの立場は似たようなものですぐに打ち解けた。バルディが雑用を嫌がらずに引き受けたこともあるが。


 昼以降に道場に集まった若葉仲間は、師範代か内弟子の先輩方に監督されて修練を行う。

 準備運動という全身をほぐす運動をしてから走り込み、そしてジュウナンという準備運動と一部被っている運動をやって一休みだ。


 その際おやつをいただく。

 このおやつが、初めは散々走らされて食欲がなかったのに食べるのも修練だと言われて食べさせられ、味もよくわからなかった。


「新弟子くん、おやつはどう?」


 おやつをふるまってくれるのはおジョウさんである。今日のお嬢さんは頭の後ろ二か所でしっぽのごとくまとめている。毎日髪型を変えるあたりお洒落人だ。

 そしてこの時間は道場にいる者全員が集まり、話を聞いたり聞かれたりする。


「最近は味わう余裕ができてきました。おいしいですねこれ」


 走り込みに慣れてきて、よく味わえるようになってみるとこれがなかなか甘くておいしい。

 剣術の月謝の中に、おやつ代も含まれているのかと思うと少しもったいない気もするが、これも修練と言われれば是非もないのだが。


「そう言ってもらえると作り甲斐があるわ。修練はどう?」

「まだまだです。早く剣を振れるようになりたいですが、走り込みが平気になったらと言われてます」

「おやつを味わう余裕ができたらもうすぐよ。頑張ってね。何かあったら相談に乗るからね」


 バルディに限らず、おジョウさんは皆に気を配っており、さすがは道場の娘とも、おジョウさんの気立ての良さの表れとも見える。

 時間の都合もあるので毎日話せるわけではないのが残念なバルディは、せっかくなので気になっていたことを訪ねてみることにした。


「そういえば気になっていたことが」

「なになに?」

「あちらのエルフの子はどういう?」

「あら、気になる?」


 一番隅でおやつを食べているエルフの娘を示して尋ねると、おジョウさんはいつにもまして目をきらめかせた。


「あ、その、二人、同じ髪型ですよね。よくお似合いで」


 思わぬ迫力を出し始めたおジョウさんに気圧され、バルディは当たり障りのない質問に変更した。

 エルフの娘も毎日髪型が違う。というか、おジョウさんといつも同じような髪形をしている。つまり今日は二つしっぽ。


「そう? ありがとう。うれしいわ。うふふ」


 おジョウさんがニッコニコで喜んでいるので良しとしよう。

 バルディが本来聞きたかったのは、同い年くらいに見えるエルフの娘が毎日おやつの時間を除いて一人黙々と木剣をゆっくり上げ下ろししていることについてだったのだけれども。



 おやつの時間が終われば、一部のものは木剣を使う修練(素振りなど)に移り、バルディを含む他の者は水をかぶって身を清めてから雑用にあたる。

 水汲み、薪割り、それから敷地内の掃除。庭木の水やりもだ。

 修練中小まめに水を飲むように指導されているので水の消費が多く、毎日の水くみの回数は多く、朝昼晩だけでも足りないそうだ。


 一通りの雑用が終わると、先輩方の見学か、座学の時間、もしくはお開きである。

 晩から来る梅の門下生と入れ違いで帰宅する。


 家に戻ればまた家業の手伝いがあったりなかったり。


 以上なかなかせわしない日々だが、バルディは充実していた。

 ただまあ、早く剣を振れるようになりたいところである。

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