剣初心者うさみ 6
「短期間で強くなる道と、時間をかけてじっくり強くなる道がある。君はどちらを望むかな?」
正式に弟子となったからには、いくつか決めることがある。
バルディは師範代にそう言われて道場脇の部屋へ連れてこられて尋ねられた。
短期間と時間がかかる、それだけ言われては普通に考えて短時間を選ぶだろう。
しかし、あえて問うのだから何か意味があるはず。
バルディはそう考えてそのように質問を返す。
「わかりません。その二つは時間以外にはどう違うのでしょうか」
「うむ、やはり君と話すのは面白い。わからないことをわからないと言えるのはよいことだよ」
「はあ」
返答に困ったバルディはあいまいな言葉しか出せなかった。
「若いのはまず前者を選ぶのだね。すこし考えられる者には後者を選ぶ者もいる。まあどちらにしても、きちんと説明してから改めて選んでもらうのだけれども」
髭をしごきながら楽しそうに語る師範代。
バルディとしては早く話を進めてもらいたいところだが、それをそのまま伝えるのも失礼だろう。そう困っていると。
「ああ、すまんね。ついつい余計な話をしてしまう。話を進めよう」
また見抜かれてしまっていた。
師範代は脳筋っぽい……もとい、いかにも武辺者といった見た目通りの人物ではないようであった。
「今の問いであれば短時間を選ぶのは、まあ当然のことだね。ただ、君の推察の通り、尋ねる以上それだけの意味がある。……いや、話が長くなってすまんね」
「いえ……あ、いやその」
「はっはっは、構わんよ」
思わず肯定してしまったが、笑って許してもらえた。見た目は怖いし、指導は厳しいが、話してみると優しい人なのかもしれないと、バルディは師範代の評価を改める。
「我が一距両疾流ではじっくりと力をつける修練が本義なのだね。ただ、剣を学ぼうというものはそれぞれ都合がある。生計のために短期間で強くなって稼がねばならない者や、学ぶ期間を長く取れない者、ある期日までに強くならねばならぬ者。いろいろね。バルディ、君はガン屋の三男だったね?」
「はい。十五までに独り立ちせよと言われています。ただ、その先も兄を手伝えば給金はもらえるでしょうから時間はさほど問題ありません」
「うむ、よい答えだ。が、あまり先を読むと、人によっては気を悪くする者もいるからね。気を付けるといい」
「ええと、はい」
褒められてから窘められることが多い気がする。これが師範代のやり方なのかもしれない。
「であれば、じっくりと力をつけることを勧めよう」
「それはどういった理由からなるものでしょう。いえ、流派を否定しているのではなくて」
「当然の疑問だ。構わないよ」
師範代は少し間を開けて言った。
「実はだな、あまり若いうち、体ができる前にスキルを鍛えすぎると、成長に弊害がある恐れがあるのだね」
なぜだかゴン、と壁の向こう、道場の方から音がした。誰かが木剣でじめんをたたいたのかもしれない。




