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使い魔?うさみのご主人様 29

「命を奪って強くなることを、昔の人の言葉からとって【レベル】が上がるってわたしは呼んでるんだけど」

「らべる?」

「レベル」


 独自の用語はやめてほしいとメルエールは思った。


「基本的には、レベルが低いほうが、同じこと(・・・・)をやったとき、【クラス】も【スキル】も、それから【レベル】も上がりやすいんだ」

「んん?」


 耳慣れない言葉が続くせいでとっさに理解することができない。

 つまり、強くない方が上がりやすい?

 逆に言えば……そのレベルとやらが上がったら、成長しにくくなるということだろうか?

 メルエールは背中から何か重いものがまとわりついてくるようないやな感覚を覚えた。

 それは今までとこれからの苦労が徒労になるのではないかという不安によるものだと判断し、自分の考えが外れているといいなと思いながら、うさみに確認する。


「未熟な方が成長しやすいとかそういうこと?」

「あ、そうそうそんなかんじ」

「それで、強い人がもっと強くなるのは大変?」

「うんうん。弱い者いじめばかりしてても強くなれないみたいな」


 メルエールには心当たりがあった。

 昔、狼を撃退……殺した日から、それまでは同じくらいの実力だった男の子――成長が早く体格に優れたメルエールがやや優位だったが、体格差が小さくなるにつれて実力の差も詰められつつあった相手――に模擬試合で負けなくなった。

 はっきりと一回り強くなった自覚があった。

 そのことを元兵士に尋ねると実戦を経験すると壁を超えることがあるのだという答えをもらった。

 その時は大人で教えてくれる元兵士が言うのだからそういうものなのだと素直に受け入れたのだ。

 これをうさみの言い分に照らしてみると、レベルが上がって強くなったということになるのだろう。


 ただ、その後、武器の扱いについて、上達が鈍ったという感覚はなかった。

 一度広がった差がおいつかれるということはなかったし、目ルールより前から習っていた人や、教えてくれる元兵士との差も、、むしろ縮めていっていたと思う。


「それはメルちゃん様が戦士の【クラス】になったからじゃないかな。その狼を殺した時に。多分だけど」

「なんで……ああ、成長が早くなるんだっけ。なんだかややこしいわね……」


 関係していることがたくさんあって混乱する。

 魔術の勉強をしている時のようだ。


「レベルが上がると死ににくくなって、魔力の量も上がるんだけど、それで上がった量よりも【魔術使い】の【クラス】になることで増える量のほうが大きいし、魔力を増やす【スキル】もあるんだけど、それも魔術使いだと成長しやすいやつだし。魔術使いの人がレベルが上がるとますます差ができて」

「待って、おいつかない」


 魔術を鍛えて魔術士にならなくてはならない。

 しかし、成長力で劣る。

 さらに、練習量で補おうにも、限りのある魔力でしか練習できないわけだから、魔力の量で劣る以上不可能だ。


 だからつまり。


「とにかく魔術を鍛えるのには向いてないってこと?」

「まあうん現状」


 メルエールは頭から血の気が引いて視界がぐわんぐわんしはじめ、全身がずしんと重くなった。

 なんてひどい現実。


 メルエールは男爵令嬢として一人前にならなければならない。

 最悪の場合、男爵位を継ぐ可能性があるからだ。

 仮にお飾りとして扱われるにしても、貴族は魔術士でなければならないし、そのなかでも召喚術士であることが望ましい。

 魔術士とはただ魔術を使えるだけの存在ではなく、国が定めた基準を満たさなければ認められない。

 王立魔術学院の中等部を無事卒業できれば自動的にその基準を満たすことができるのだが。

 一年目ですでに落第寸前なのが現実だ。


 うさみが現れてから、いろいろなことがいいほうに回ってきた。

 友達ができたし、勉学も一からやり直せる環境になった。

 魔術も驚くべき速度で上達し……。


 あれ?


「うさみあんたもしかして、レベルがすごいとか……?」

「んーん。わたしレベルは一度も上がってないよ」


 メルエールは思い付きをうさみに尋ねるが、あっさりと否定される。

 もしかしたらうさみがすごい強くて、それを相手に魔術の練習をしたから上達したのかと思ったが、そうではなかった。

 ……いや、レベルが上がっていないのに、レベルが上がった戦士のメルエールが捕まえられないというのはどういうことだろう。

 なにかまだ秘密が……?


 考え込んだのを見たうさみがメルエールの肩をたたく。


「考え方一理あるんだ。今日はそのために森に来たんだから」

「え、どういう?」


「簡単なことをしても上達しにくいけれど、難しいことをすると上達しやすいんだ。難しいことって言うのは、例えば危険な場所にいること」


 森の中とか。


「例えば、邪魔が入ること」


 行為を邪魔する者がいるとか。


「例えば、レベルが高い相手と対峙すること」


 うさみがちょいちょいっと後ろを指さす。



 見るとそこには牙の生えたウサギと右腕が異様に発達した熊がにらみ合っていた。



「は、え?」


 視認した瞬間、今まで感じていた体にまとわりつく重いものが、さらにメルエールを縛り付け動けなくなった。


 精神的なものじゃなくてコレのせいだったの……!

 強制的に理解させられた。

 まずいやばいこわい殺される死んだ。

 悲鳴を上げる余裕もなかった。

 強者が二体。にらみ合い張り詰めた空気にあてられ身動きが取れない。


「例えば命の危険にさらされること」


 冗談じゃない。

 うさみをどうにかしようと思ったが、二体の魔物から目を離せない。

 目を離した瞬間死ぬ気がする。

 いや目を離さなくても抗えない。それほど格が違うのが理解できた。


 ただ震えあがるメルエール。

 しかしうさみは。


「じゃあ練習しようか」


 あっさり言い放った。

 ふざけんな。

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