ゾンビ初心者うさみ 58
「終わったねえ」
「終わったのじゃ」
王都マーゼの巨樹のてっぺんで、うさみとエルプリは座り込んでいた。てっぺんとは言うが、まあ空中だ。
流星雨のごとく打ち出され続けた光の筋は止み、光の魔法陣も用が済んだので消えており、持ち込んだ金貨も消え去って、ここのところ徐々に強くなってきていた腐臭もさっぱり消えて、涼やかな風が通り過ぎるばかりである。
やたらめったらひたすらに繰り返し魔法を打ち続けるというのは、魔法の回復を加味しても消耗したらしい。元気な状態から疲れてきて、元気に戻ってまた疲れるのがわかっているという行為を繰り返すのはつらいかもしれない。うさみはちょっと自身の身の上と重ねて頑張らせすぎたかな、と思った。
しかし。
「これでひとまず、うさみたちの行く道も安全になったじゃろうか?」
「あ、うん。よく頑張ってくれたよ。ありがとう」
「わらわたちの為でもあるのうひゃー」
疲れを感じていることは隠していないが、それでも笑顔で言うエルプリを見て、うさみは引け目を感じるよりは褒めてあげるべきところだと思いなおす。そして、エルプリの頭を抱き寄せて髪をわしゃわしゃした。エルプリは悲鳴を上げた。
ひとしきりきゃーきゃー遊んだあと、今度は乱れた髪を梳かしながら、少しばかり語り合った。
エルプリは謝意を伝え、うさみはそれを受け取った。
笑顔のエルプリだったが、なぜか泣きそうにも見えた。
何となく別れがたい空気で、しかしアンデッドを処理したので出発の時は近い。
うさみは、さて、とつぶやきながら立ち上がった。
「行くのじゃ?」
「うん」
「寂しいのじゃ」
「エルプリには仲間がいるじゃない」
「それとこれとは別なのじゃ」
エルプリはうさみを見上げ、うさみはエルプリを見下ろして、話す時見下ろすってあんまりないなあ見上げてばっかな気がするなあとか思いながら。
「エル子、エルプリをよろしくね」
精霊エル子に声をかけると、エルプリの周りをくるくると光が舞った。
「……うさみ」
「うん」
「……またなのじゃ」
「うん、またね……何かあったら、【啓示】とかで呼んでくれれば来るし、たまに様子見に来るからね?」
「そうなのじゃ!?」
【啓示】は他者の頭の中に直接メッセージを送る神聖魔法である。
神聖魔法は何もしなければそのうち使えなくなるだろうが、当面はつかえるし、落ち着けば緊急の呼び出しもないだろう。
うさみ一人ならフットワークは軽いし、人がいなくなり人目を気にする必要があまりなくなったので会いに来るのもそれほど手間ではない。
なので今生の別れとかではない。
ということを言っていなかったかもしれない。
エルプリはずいぶん驚いたようで、うさみはごまかすために笑った。えっへへ。
「あ、そうだ、この街の金貨、大口の集まってた分は大体さらったけど、小口のところは回収できてないから、必要なら探すといいよ」
「わかったのじゃ」
「あと、金銭神の神官を維持する方法がないわけでも――」
「うさみ」
土壇場で思いついたことがあったので口にしていたうさみをエルプリが止めた。
「いってらっしゃいなのじゃ」
「あ。ん、じゃあ行ってくるね」
その後、一緒にエルプリの部屋まで戻ってから別れた。




