ゾンビ初心者うさみ 56
聖域の魔法が解除される。
領域内にいたアンデッドがすべて消滅したのである。
これで王都マーゼ内はひとまず安全になったと言えるだろう。
エルプリは大いに強化され、うさみはもおこぼれでレベルが上がってしまった。
王都マーゼからアンデッドを駆逐したことで、最悪巨樹の護りを捨てて精霊エル子を元の消滅しかけてうさみが維持していたような状態に戻すことを容認すれば、これで十分かもしれない。
だが、不死の王はまだ火竜王相手に戦っているし、周辺のアンデッドはまだまだいるのである。
都市に密集する人間だけでも都市外に居る者も多くいるのに、鳥や獣、魔物は数えきれない。それでも虫がアンデッド化していないらしいだけマシな方だ。
なんなら聖域の魔法も維持し続けたいくらいだろう。
ではどうすれば懸念を払えるかといえば、もっとアンデッドを消滅させ、もっとエルプリが育つことがひとつの手段であり、今回の選択でもある。
うさみは、探知の魔法の範囲を王都マーゼ周辺から一回り広げた。
おおよそ、半径徒歩三日分といったところ。その程度の範囲であってもおびただしい数のアンデッドの反応があった。
エルプリに探知の情報を共有すると。
「これ全部やるのじゃ?」
「うん。余裕があったらもう一声いくよ。上限までもうちょっとあるから」
「ひ……が、がんばるのじゃ」
精霊エル子のためにもエルプリには頑張ってもらいたい。
そうこうしているうちに、うさみは空中の魔法陣を描き替え終わる。
「それじゃあお願い」
「うむ。金銭神様。お金を払うので闇と汚れをはらう太陽の力を借りてきて欲しいのじゃ。【大浄化】!」
【大浄化】は術者を中心に力量に比例した範囲のアンデッドを消滅させる、対アンデッドに特化した単発型の【聖域】とでも評すべき神聖魔法である。
瞬間的には聖域を超える対アンデッド性能を発揮する一方で、長時間維持しない前提のもので、聖域の副次的効果もない。というか聖域の対アンデッド効果は多くの付随効果のうち一部に過ぎないのだが。
ともあれ、その聖域とは用途が違うが魔法としての格はおなじくらいであることを考えるとその効力の高さは想像できる。
そう、術者を中心。
聖域の魔法で一掃した場所で大浄化の魔法を発動させたところで、意味がない。本来ならば。
そこでうさみが展開している魔法陣が効果を発揮する。
「マジック大浄化……じゃあ手品みたいだね。大浄化ミサイルかな?」
魔法陣を通して大浄化を発動させることで、光の線が上空へと放たれ、弧を描いて飛んでいく。
ひとつ。ふたつ。よっつ。やっつ。じゅうろく。さんじゅうに。
倍々にしていくと認識しやすいのでうさみは好んで利用している。
のはともかく。
マジックミサイルの誘導アルゴリズムを抽出して魔法陣に変換。
射程の延長を追加し、探知魔法と同期してアンデッドの反応の場所に打ちこむ。
着弾地点で大浄化が発動する。
と大まかにはこういった仕組みである。
威力の底上げやら魔法制御の補助などのほかにもいくつかの効果を組み込んで、一度に仕える魔力の上限までもう少し余裕がある。
この分をさらなる射程の延長にあてれば――。
「あ、エルプリ、魔力の操作とか、保有量とか、回復量とかの訓練、ちゃんと魔法射ちながら、同時に、やってね。それが一番大事」
「き、厳しいのじゃ……金銭神様。お金を払うので癒しと安らぎの力を借りてきて欲しいのじゃ【快復】」
魔法の行使に意識が向きすぎているので指摘すると、エルプリは自身に回復魔法をつかった。
ただの無茶振りではない。意識を振り分けているだけで違うのである。それが世界の仕様なのだ。倒す時に使ったスキルに配分される。
「じゃがいも、わらわは、頑張るのじゃ。うさみ、見てるのじゃ」
うさみは子どもに頑張らせすぎかもしれないと、ちょっと罪悪感を覚えた。




