ゾンビ初心者うさみ 54
「【満月結界】」
空が夜へと変わり、まんまるなお月様が輝いた。
うさみが気合を入れる時に使う魔法である。
夜と月を鍵として、うさみの力を大きく力を増幅させる。
通常であれば発動から広がっていくしていくこの結界魔法を、今回はうさみの周囲のみにとどめ置く。
エルプリと手を繋いでいるうさみの体の表面を覆う状態まで納めれば、外見上、結界の魔法を使用している者とはわからなくなる。
この、自身の体に沿って魔力を扱う技については命名していないものの、うさみの日常かつ修練かつ奥義かつ得意技といってもいいものだ。
体を境界とすれば身に蓄えている魔力を漏らさずにいられる。
自他の境界なんてものは誰だって認識している基本的なものなのであり、それは利用しやすいわけだから、魔法使いはまずそこを鍛えるべきだというのがうさみが辿り着いた基本の一つだった。
話がそれたが、まずうさみは自身の能力を底上げした。
つづいて。
「【ひなたぼっこの結界】」
雨だけど洗濯物を干したい、そんなときに便利な魔法である。
満月結界の応用で扱える。
物干しのほかに、雨続きの畑に日光を当てたりもできるし、もともとはちょっと寒い時期に日向ぼっこしたいなあと思って考えたものだ。
昼と太陽を鍵として、巨樹の精霊エル子の力を高めるため、そして、太陽の浄化能力を重ねることを期待する。
アンデッドは日光に弱いものも多いのだ。ゾンビにはあんまり関係ないかもしれないが、アンデッドというくくりでとらえればこの後に使う魔法を強化できる。
お日様の力に満ちた結界が、うさみとエルプリ、精霊エル子、そして巨樹をも包み込む。
巨樹は葉をますます青々と茂らせた。
そして。
「【光の絵を描く魔法】」
空中に光で自由にものを描くための魔法である。
うさみが持つ花火とか、ホログラムとか、そういったものを総合して魔法で扱えるようにしたものだ。
暇な時の手慰みや、メモにつかったり、造形の練習にも使う。
うさみから発せられた複数の光がくるくると踊りながら宙を駆け巡り、線を残しながら拡大していく。
描かれるのは魔法陣。魔法的に意味がある図形を複合させたものである。
カ・マーゼ王国の宮廷魔導師と錬金術士が作り上げた解呪砲という兵器の開発の際に目にした技術が多分に含まれていた。
それは魔力の方向性を外から操作するという技術であり、つまり魔法に効果を付加するのと同じことである。
うさみが扱う魔法技術とも共通する部分があり、既存の魔法の性質を部分的にあるいは全部変化させることもできる……かもしれない。
発展先はともかく、とりあえず今回の目的には十分だ。
うさみから発した光によって生まれ三次元的に展開した多重の魔法陣。しかしその中心はエルプリだった。
エルプリこそがこの一連の作業の中心なのである。
「準備はできた。まずは【聖域】からいこう。対価を払うから、よろしくね」
うさみが空いた手をくいくいと動かすと、背負い袋の中から金貨が飛び出てきてエルプリの空いた手のひらにチャリンと
「承ったのじゃ。金銭神様。お金を払うので創造神の力を借りてきてほしいのじゃ――【聖域】」
エルプリの祈りに応えて。
高位神聖魔法、聖域が王都マーゼを範囲として顕現した。
指定範囲を神聖な領域と定めることで、神殿とおなじような性質に変化させる、結界魔法の一種でもある神聖魔法である。
ただ、都市一つを覆うというのは並ではない。熟達と、注ぎ込む魔力の量が必要なのだ。
使い手が多くはないというのもあるが、もとが高位の魔法であるので熟達するにも時間と手間がかかるだろう。
覚えたてのエルプリがこれだけのことができたのは、もちろんうさみが展開した魔法陣による拡張によるものである。
神殿の扱う神聖魔法に、魔導師たちが扱う魔法と錬金術が協力した技術、あとおまけにちょこっとうさみの力が合わさり、エルフのエルプリによってふるわれたのだ。




