ゾンビ初心者うさみ 42
「屋根を借りたいんだけど、いいかな?」
「いつぞやの破戒エルフ……!」
突如現れたうさみを、神官服を着た大の大人が遠巻きに囲んでいる。
その中に、うさみを知っている者がいたらしい。神殿で破戒なんて口走ってほしくはなかった。おかげで視線がさらに痛くなってしまった。
うさみは、王都で最も大きな神殿にやってきていた。
創造神の軒下に、単独で神殿を持てない神々を祀る合祀神殿である。
うさみが以前有り金を捧げても神官位を与えられず破戒神官だということがばれ(本人的には思い出し)白い目で追い出された神殿はその一角である。
うさみとしては必要な時にドカンと入金すればつかえる金銭神様の神官というのは使い勝手が良いのだけれど、奉納金が滞って資格剥奪されてしまうと、一度全部支払わないと復帰できないのが不満である。
そのノルマは高位の神聖魔法を使えるようになればなるほど高額になるので、引きこもって農作業に打ち込んでいると維持できないのだ。
うまく息継ぎあるいは自転車操業すればいいが、ちょっと夢中になって百年とか過ぎると払えなくなってしまうのである。
まあそれはおいといて。
「食糧をもってきたよ」
「神よ!」
アンデッドに神殿を囲まれているところに現れたうさみに対し、白い眼と警戒のまなざしを送ってきていた神官たちが、各々神に祈る仕草をする。
持ってきたうさみに感謝しているのではないのがポイントだ。いや感謝してないわけでもないかもしれないが。
訪れる前にお城の備蓄から痛んでいないものを持てるだけ拝借してきた。
大きな神殿であるだけあり、人もいる。
そしてアンデッド化の日から何日も経っている。
つまり、食料不安か不足に陥っているであろうところに食べ物を持ち込んで要望を通す……もとい喜んでもらおうという計略である。
食料に沸く神官たち。
しかしその中からひとり、難しそうな顔をした神官が進み出てきた。中国不精のようなひげを蓄えたおじさん神官である。
その様子を見て、はしゃいでいた神官たちもだんだん静かになってくる。
そして、うさみと髭の神官は一足の距離で対峙した。
「エルフの子よ。その食糧はどこから持ってきたものかな?」
なかなか目力のあるおじさんで、うさみはうっかり怯みそうになったが、我慢した。
「王宮の台所の奥だよ」
ざわり。と、後ろの神官たちがざわめく。
「それは盗んできたということかな?」
ぎろり。と、うさみをにらみつける髭神官。
内心ひぇーと悲鳴をあげながら、うさみはにこやかに返した。
「アンデッドに制圧されている場所から物を持ってくるのは盗みに該当しないんじゃないかな?」
「……ふむ」
髭を触って考える様子の髭神官。
うさみはここぞと言葉をつづけた。
「山賊が奪った財宝は、山賊を倒した者のものになるのが通例だし、ダンジョンの中のものは見つけた者の物になるよね」
持ち主がわかるものは金銭などで買い上げられるなどの措置が行われることもあるなど状況次第で例外は多いが、基本的に発見者優位の立場であり、おおむねこの慣例が適応される。
うさみは今回もそうだと主張した。
髭がうむむと唸る。
ごくり、と誰かがつばを飲む音が聞こえる。
「せええええええええええふっっっ!」
髭が大仰な身振りで判定を示した。
後ろの神官たちが沸いた。




