ゾンビ初心者うさみ 40
現状最大の問題。
それはゾンビ等のアンデッドではなく。
「エル子どうするかだけど」
森の精霊様、いや、今となっては巨樹(聖樹?)の精霊、エル子である。
「なのじゃ。わらわではエル子様を維持できぬよな?」
「前ならまだ可能性あったけど、今は無理だね」
エルプリが、眉を八の字にしての問いに、うさみは現状の答えを返した。
というのも。
エルフに聖樹と崇められ始めたこの巨樹は、エル子の力で維持されている。
本来人族の領域でこれほどの巨樹を育成維持することはかなわない。
森の力を結集し、精霊が束ね、大きな樹を育むことはあるが、このような開けた場所に存在できるものではないのである。
大きさに見合うだけ大地の力を必要とする。巨体の維持のため高い密度もだ。
瞬く間に育ったこの巨樹はそういった背景が全くない。
にもかかわらず存在し、威容を維持していられるのは、樹に宿る精霊エル子が身を割いているからなのである。
そして精霊エル子に魔力を供給しているのはうさみだ。
無断だったけれど。非常事態だったし仕方がないことだろう。
エルプリを護るようにと言い置いたこともある。
紅の森を焼かれ、本来の領域を失い、力を大きく損なって、もしかしたら一度消滅するかもしれなかった森の精霊様を維持したのはうさみだ。
判断によってはエルプリがそうなっていたかもしれないが、それはエルプリの価値観によって為されなかった。
あの時点であればエルプリの魔力で維持できて、なおかつエルプリの成長とともに力を取り戻して行けたかもしれない。
まあそうなっていた場合、エルプリは不死者の王の力でアンデッドになっていただろうから、結果オーライなのだけれど。
名前を付け、存在の維持に必要な魔力を与えるうさみと精霊エル子は、言ってしまえば親子のようなものであり、あるいは主と使い魔のようなものである。
つまるところ実は巫女姫と呼ばれるべき立ち位置にいたのは、うさみだったのだ。
そしてうさみが魔力の供給をやめると精霊エル子は失われてしまうだろう。
精霊は魔力の塊であり、魔力は身体であると同時に食料にあたるものだからだ。
そして、かつての森の精霊であったころならともかく、うさみに名付けられ森を出た時点で魔力を得る手段が限定された。
森にいないために森から魔力を得ることが出来ず、うさみとのつながりからしか魔力を得ることが出来ない。
さらに、環境に合わない巨樹を育ててしまったため、精霊エル子は巨樹に身を宿さなければならなくなった。
そして巨樹からうさみは離れるつもりでいる。
遠くてもうさみから魔力を得ることはできる。
だが、この場合の離れるというのは物理的な距離だけではなく、巨樹を拠点とするエルフたちとたもとを分かつという意味でもある。
そうなると巨樹を維持する義理はない。
なので精霊エル子を連れて去ることもできる。
しかしながら、精霊エル子はもともとエルプリたちがいた紅の森に座す精霊様であったのだ。
ならばエルフたちとともにある方が相応しいだろう。
さらに言うなら、うさみは精霊エル子の力を特に必要としていない。一方でエルフたちというよりは巨樹には必要である。
だが、今となっては精霊エル子に魔力を与え続けることが出来るのは、うさみくらいである。少なくとも手近なところにはいない。
今から無関係になろうとしている、うさみだけである。
「気にせず去ってもよいところをこうして考えてくれているうさみはやっぱり優しいのじゃ」
「いやまあ、エルプリは友達だからね」
うさみ自身の安心のためにも、置き土産の一つも置いて行くのが人情だろう。




