使い魔?うさみのご主人様 26
ネタばらしをはじめようとうさみは言った。
「実はね」
「実は?」
ごくり。
固唾をのむメルエール。
いままで尋ねてものらりくらりとかわされたり、ごり押しで押し切られたり、そもそも言ってくれないだろうと聞かなかったりと……。
メルエールは思った。
あれ、もっとちゃんと訊いておいた方がよかったんじゃ、と。
うさみが現れてからこちら、怒涛の如く流れていく状況に流されていた。
自分はこんなに緩かったかと考え込みそうになるが、それより今は話を聞く方が先だと思いなおす。
そういうところが流される原因なのだが。
「本当は毎朝飲んでもらってる緑色の汁は毒じゃないんだよ!」
「知ってるわよ! あんた自分で嘘だって言ってたでしょ」
メルエールは空いている手でうさみの額をぺちんした。
手を繋いで座っているので手が届く。
うさみはあいたーと額をさする。わざとらしい芝居がかった動きで。
メルエールはイラっと来たので拳を握った。
「は、はなせばわかる。あっ手を離して! 逃げられない!?」
メルエールはうさみの頭をガツンと行こうとした。
しかし、うさみは手をつないだまま器用に避ける。
「そんなこと言って、ちょっと疑ってたでしょ? 毒で死ぬかもって」
「うっ」
確かに。
疑っていたといえば疑っていた。
あの液体を飲むと体が重くなるのだ。
時間差で死ぬ毒、というのが嘘であるとして、嘘の部分が毒ではなく時間差で死ぬという部分にかかっているとすれば、別の効果の毒なら、毒であり、嘘であるという論理は成り立つのだ。
嘘ではないと疑っていたわけではない。
毒かもしれないと疑っていただけである。
と、ここまで考えて、メルエールはうさみの言葉が正しいものという前提で考えている自分に気づいた。
疑っているにもかかわらず信用している。
嘘をついていると明言している相手を信用しているという、おかしな状態だ。
いつからこうなっていた?
いつのまにか。
うさみはメルエールを利する行動をとり続け、同時に口ではのらりくらりと適当なことを言ったかと思えば有益なことを言ったりと捉えどころのない――。
メルエールは背筋がゾワリと――。
「変な風に考え込む前に話を続けよう?」
――したような気がしたが、うさみの言葉で現実に引き戻された。
「あ、うん……って、話が進まないのはあんたがいちいち混ぜっ返すからでしょ」
「そうでした」
ほらまた。
メルエールはまったくもうとため息をついた。
「ため息をつくと幸せが逃げ……おっと、そうじゃなかった。ごめんねうっかり」
ここにきてうさみが余計なことばかりしゃべる。
そこでメルエールがじろりとにらみつけると、うさみは姿勢を正して続けた。
「とりあえず一番重要なことなんだけどね、前にメルちゃん様が魔術の才能ないって言ったのは嘘でね」
「えっ」
「まあ普通くらいかなあ」
「えー」
メルエールはちょっと期待してしまったので普通といわれてなんだかとても悔しかった。
こうやって精神を揺さぶるのがうさみのやり口であるわけだが。
「問題は違うところにあってね。創世神話は知っている?」
「問題? いいえ、学院でも習わないし、触れたことはないわね」
「この国神殿と仲悪いからなあ」
うさみがブツブツ言っているが、メルエールはその前が気になった。
問題。
なにかしら不都合があるということか。
メルエールは身構えて次の言葉を待つ。
「メルちゃん様が命を奪ったことがあることと、戦士になろうとしたことがあること、この二つが魔術使いになるための障害になっているんだよね。神話に倣うなら、障害じゃなく祝福なんだけどもね」