ゾンビ初心者うさみ 26
「えっと、何の話だったっけ?」
うさみがなぜか濡れていた顔をぐしぐしと拭いて、尋ねると、あわあわしていたアップルは一瞬、え、なに、だいじょうぶなの? という顔をした後。
「あ、っと、そう。できないならできるようになればいいのよ。基本的な攻撃魔法は教えられるし、武器、はもってないか、体術も。あの探知魔法を毎日改良できるくらい魔法に精通しているなら攻撃魔法の威力もすぐに調整できるでしょうし、うさみちゃんの身のこなしなら体術もすぐに上達する――」
話している途中からだんだんとアップルの顔が青くなる。
慌てて話題を変えようとしたけれど変わってなかったやっべ。とアップルの顔に書いてあった。
今までは強い人特有の余裕があったように見えていたのだけれど、結構面白いなこの子。
うさみは笑った。
「そう、そうだね。せっかくだから明日出る前にちょっと教わろうかな」
「お、そうよね、せっかくだからね」
アップルも笑った。ほっとしているようでもあった。
「ところで確認したいのだけど、今の探知魔法の範囲、あたしが見えたのは最大ではどれくらいなのかしら」
ひとしきり笑って、ひと段落したところで。
アップルがちょっと真面目な顔で尋ねる。
その様子を見て、うさみはこれが本題だったのだと気が付き、自分も真面目に答えることにした。
「不死者の王がいる方向は意図的に外してるけど、それ以外はこの地方が入るくらいまで見えるかも。ただ、遠いと精度が悪いよ」
仕様的に反応した対象の向こうは情報がとれない。観測物質の発射点を複数用意しても距離があると誤差になる。
地球時代にレーダーの勉強をしておけばよかった……いや、当時は興味もなかったからありえない考えだ。概念を知っていたことも奇跡に近い。
うさみが過去に思いを馳せているとアップルが頭を抱えた。
「やっぱりかー」
「どうしたの?」
「ものすごくよくない話よ。うさみちゃんも気づいてるわよね」
うさみはさりげなく外部への音を遮断する結界魔法で二人を囲んだ。
「最初は川を渡った時に気づいたんだけどね。水中にいっぱい反応があったのよ」
「あー」
「まさか海も、と思ったんだけど」
「そうだね。把握してる範囲では、川も、海も。魚がアンデッド化してる」
生き残った反応は多くはない。
幸いと言おうか意外と言おうか、王都方面に生存者の反応が固まった場所がある。多分王都だろう。だから王都への移動を続けている。
帝都方面は戦場を避けていることもあり雑な走査だが、やはりアンデッドが多数で生存者はわずか。
森。虫はアンデッド化していないようだし、小型の虫は生きていても反応しない。数が多すぎて邪魔だからだ。アンデッドではない大きな反応は大型の虫の魔物だろう。
虫以外、馬などの騎獣や騎鳥はアンデッド化していたので当然他の獣や鳥もアンデッド化しているだろう。
事実森の中はアンデッドの反応でいっぱいだ。
植物は無事と思われる。
懸念はエルフの樹だが、まだ確認できていない。
なお、アンデッドに殺されるとアンデッドになる。
仮にならなくても死ぬ。
さて、こういった状況が発覚したわけだが。
「世界滅亡じゃないこれ。少なくともこの地方では」
「虫しかいない世界になるかもね。生態系壊滅。火竜王が無事ってことはドラゴンもいるのかな? 火竜王が強いから平気だっただけかも?」
「人が減りすぎて農業も、アンデッドは寄ってくるし」
「わたしはその辺の草でも食べられるから。皆も食べられるようになればいいよ」
「えええ」




