ゾンビ初心者うさみ 20
「わ、何よこれ!? 視界の中にちかちかして。うわ、動く。動かない?」
アップルがキョロキョロしながら驚いているのは、うさみがかけた魔法の効果に対してだ。
動く、というのは、顔の向きによって視界に現れたものが形を変えることを、動かない、というのは現れたもの全体の視界に対する位置が、顔を動かしても変わらないことを言っているのだろう。
「わたしが把握してる位置情報を共有したよ。赤がアンデッド、青が人間、黄色もあって、それ以外だけど今は範囲内にいないね。自身の向きや動きと同期してるから、動くと光も動くよ。邪魔だったら消したりつけたりできる。縮尺も変えられる。わかる?」
「ええ、と?」
アップルの視界に探知魔法で得た情報を円形のレーダーマップのように表示するようにしたのだ。うさみが認識しているものを出力した形である。
これは昨夜開発した魔法のひとつ。
戦争に参加して、あったら便利かなと思った情報共有の魔法。効果は術者が打ち切るまで。
文字を表示することで言葉も伝達できるのだけど、アップルが読めないので。
「矢印が出たらそっちに向かって。こんなかんじ」
「矢の印ね」
他、点滅している反応があったら優先して攻撃するとか、ガンガン行ってとか、倒さないで引きつけてとか、符丁を決めた。忘れないことを祈る。
「倒さないでってのはどういう意図かしら?」
「アンデッドの動く条件を確認するのが目的だからだよ。アップルお姉さんが一瞬で倒しちゃったらわかんないでしょ」
「それはそうだけど。あたしからそっちに連絡する方法は?」
「あー、んー、糸電話の魔法は障害物があるとだめだから……情報共有を使って通話しようか」
会話できるようになった。
幾分維持に必要な魔力が増えたが、とりあえず今は気にしないでおこう。そのうちブラッシュアップしよう。
うさみは問題を先送りした。
「会話できるなら文字とかいらないんじゃないかしら?」
「いやあったら便利だよ」
カーナビのことを思い出すとわかるが、矢印で方向指示してもらえるのは大変便利である。
ちょっと視界がうるさいのが困るので消せるようにもしておいたし、うさみは視覚ではないところで認識しているので問題ない。
急造の魔法の出来にひとまず満足したうさみは、検証の予定についての説明に移る。
「とりあえず接近してみて、誘導できるか、見えないところを察知してくるか、交戦した時の反応を調べたいと思うので、お願い」
「それならうさみちゃんが行った方が早くないか?」
「アップルお姉さんならいざという時蹴散らせるでしょ」
「それはそうね」
それに。
「それと、帰りは安全な方法を用意してるから。目印にも使うからその棒無くさないでね。なんならあと十本ぐらい持っておく?」
「そんなにはいらないわよ?」
アップルはうさみが差し出した中から一本引き抜いて腰のベルトに挿した。
もう一本はどこか見えないところにしまっているようだ。
「それじゃとりあえず点滅してる赤を目指して、矢印追いかけてもいいよ」
「いきなり道はずれるんだけど……」
「お願いしまーす」
「えぇ……しかたないわね」
うさみはここにきて、やっぱり空を動ける自分が行った方がいい気がしてきたが、段取りはほぼ終わったし、アップルが動く気になってくれたので言い出さなかった。
誘ったうさみなしで、アップルが、王国民ばかりの中に取り残されても気まずいだろうし。
「うおっとぉ? ありがとうさみちゃん」
心ばかりの魔法による補助をすることにして、うさみは心の棚を強化した。
体重が半分に感じればだいぶ楽なはずである。




