使い魔?うさみのご主人様 25
手を繋いで森を歩く。
童話の登場人物のような状況だ。
相手がちっちゃいエルフというのもそんな感想を後押しする。
しかしこれは現実で、森の奥深くに踏み込んでいることに変わりはない。
たとえうさみがいきなりしゃがみ込んで草をむしったり、いきなり跳ねて葉っぱをむしったりという奇行をはじめても……。
「いやあんたさっきからなにしてるの。っていうか何食べてるの」
思わず顔をしかめるメルエール。
なんと、うさみがむしった草を食べていたのだ。むしゃむしゃと。
籠に入れているのかと思いきや、いや籠にも入れているのだが。
「道草?」
「駄洒落が聞きたいわけじゃないわ」
しょうもないことを言うのでメルエールは額に手をやった。
するとうさみは手に持った葉っぱを差し出してくる。
「食べる?」
「食べないわよ!?」
あっそうと籠に放り込まれる葉っぱ。
うさみが何を考えてるのかわからないのは毎度のことだが、そのへんの葉っぱとか草とか食べ始めるとは思わなかった。
メルエールはあらためて大丈夫かしらと不安が増した。
「あのお薬とかの材料だから食べても問題ないんだけどね、おいしくないけど」
「おいしくないのになんでそんなむしゃむしゃ食べてるのよ」
「おもしろいかなって」
「そんなことに体張らないで!?」
大丈夫かしら。
黙っていると不安になるので……というかうさみが黙って奇行を始めるせいで不安が増したので話しかけてみたのにさらに不安を募らせることになるなんて。
どんどん森の奥に連れ込まれていく。
うさみの技術なのか思うほど疲れもない。
危険な森の生物にもまだ遭遇していない。
ただ、ここから一人で帰れといわれたとして森の外に出られる自信はない。
それでもなお、奥へ奥へと歩いていく。
手をつないだ案内人がたまにしゃがんだり跳ねたりするのを見ながら。
「ねえ、どこまでいくの? なにをするの? 毎朝の緑色の汁は本当は何? 体が重いのはあれのせいなの?」
「いきなりどうしたの?」
メルエールの口数が突然多くなる。
ものすごく単純化すると、怖いのだ。
怖さが不安につながり、閾値を超えた。それだけのことだった。
自発的な行動ではなく、主導権がうさみに握られている状態で、危険な場所へ踏み入っていく状況が大きな重圧になっていた。
とはいっても、メルエールはそこまで自己分析ができておらず、ただ焦燥感に追われていた。
「そろそろいろいろ話してくれてもいいんじゃないの?」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろよ!」
メルエールがぷんすこぴーとふくれて地団太を踏んで手を強く握った。
体の奥からこみあげてきた感情に任せた結果だ。
剣を振って鍛えられたメルエールの握力は強い。
しかし、握られたうさみは痛そうなそぶりも見せなかった。
「ああ、ごめんごめん、ちょっと追い込みすぎたかな。そんな泣かなくても大丈夫だから」
「へ?」
言われて、メルエールは自分が涙ぐんでいることを自覚した。
さらに、手が震えていることも。
うさみが背中を撫でてくる。
軟革の鎧の上からだけれど、なんだか安心した。
「まあそうは言っても危険な場所にいるのは確かなんだけどね」
しばらくしてメルエールが落ち着いたころに、うさみがまた危機感をあおるようなことを言いだした。
「ここは二種類の魔物の縄張りの境界でね。右手がウサギの魔物、左手が熊の魔物の縄張りなんだ。どっちもメルちゃん様が襲われたら多分死ぬから気を付けてね」
「そんなこと言われてもどう気を付けろっていうの?」
あっさりと恐ろしいことを暴露されて、目が赤くなっているメルエールはまたちょっと涙ぐんできた。帰りたい。
「どっちかに踏み込まなければ大丈夫だから。たまに気まぐれもあるけど大体」
「大体って! 大体って!?」
「あんまり騒ぐと興味を持たれるよ」
メルエールはサッと自分の口を空いている手でふさいだ。
「さあ、何から話そう。その前に座ろうか。ちょっと先にちょうどいい倒木があるからそこまで行こうか」
うさみの導くままに進むと、少し開けた場所に出る。
そこには、うさみの言うように倒木があった。
「これってもしかして……」
「熊でもウサギでもない別の何かの仕業だね。まあすでにこのへんにはいないっぽいから」
メルエールの想像を否定するうさみ。
熊の魔物など力が強いと聞くので、そいつがなぎ倒したのかと思ったが、違うという。
しかしまあそれは重要なことではない。
危険がないというならそれでよかった。
二人は倒木に腰掛ける。
「さて、それじゃあネタばらしをはじめよっか」
うさみが言った。