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使い魔?うさみのご主人様 24

 森というのは人のいるべき領域ではない。

 暗いし迷う。

 見通しも足場も悪い。

 普段見ない危険な生物がいる。


 人間も森の恵みをも利用して生きている。

 しかしそれはごく浅い部分で、専門の人間の手に限られる。

 一歩踏み込めばそこは何が起きるかわからない異世界なのである。

 そしてその異世界は、魔術王国サモンサが主張する国土の七割以上を占める。なお近隣の国家でも同じかそれ以上である。


 王都周辺であっても少し遠出すればそのような異世界にたどり着くのである。




「森についたわ」


 その森との境目にメルエールとうさみは来ていた。


 メルエールは普段の装いと違い、小剣を下げて革鎧を身に着け、鞄を背負っていた。

 気休めではあるが、メルエールには多少の心得がある。

 実際になんどか命を拾ったことがある程度には。


 また、鞄の中には大急ぎで支度した道具がいくつか入っている。

 うさみが急かすのでたいした準備はできなかったのでこれも気休めにしかならないだろう。


 一方うさみは手ぶらであった。

 メルエールの装備についての言及もなく。

 森で何するかについても口を割らず。

 連れてこられたのだ。

 朝早くから走って。


「ねえ本気で入るの? というかあんたなんで何も持ってないの? 荷物持ちなさいよ」

「本気で入るし庭みたいなもんだから鞄持とうか?」


 言ってることがつながっていない。

 とりあえず持たせた。

 メルエールにとってはちょうどいい大きさの背負い鞄であるが、うさみに背負わせるとすごく大きく見える。

 後ろから見ると鞄が歩いているようだ、というのはさすがに大げさだが。


「じゃあまあはぐれたらいけないから手を繋ごうね。はいれっつごー」

「烈豪?」


 うさみが差し出した手をメルエールが握ると、何のためらいもなく、うさみは森へ踏み込んだ。

 そしてすいすいと進んでいく。

 メルエールはドキドキしながらついていく。


 すぐに森の外が見えなくなる。

 薄暗い。

 わずかな木漏れ日。

 よくわからない虫の声。


 足が止まる。


 うさみが足を止めたのだ。


「ちょっとまってね」


 そう言ってうさみが手を離す。

 一本の木の根元である。

 大きなうろがあり、そこにうさみが頭を突っ込んだ。


 手を離されたメルエールはなんだかそわそわして落ち着かなかった。

 まだそれほど歩いてはいないはずだが、方向がわからなくなりつつある。

 知らない森をこんな奥まで入ったのは初めてだ。

 森というのは簡単に迷うものだ。似たような景色が多い。

 さらに空気も違う気がする。


「あんたすいすい歩いてきたけど大丈夫なの?」


 不安をごまかすためにメルエールはうさみに声をかけた。

 うさみは、木のうろから何かを取り出している。

 それは蔓を編んだ籠だった。


「平気平気。さっきも言ったけど、このくらいの森は庭みたいなもんだよ。まあ人の家のだけど」

「ああそういえばエルフは」

「それもあるけど、まあ慣れのほうが大事だね」


 エルフは森の住人だと言われている。

 暗い場所でも見える目を持ち、森の中では迷わないといわれている。

 エルフと戦争になった際に森に引き込まれて大きな被害が出たというのは有名な話で、森こそが彼らの領域なのだ。

 つまり人間とは生きる世界が違うというわけである。

 現在はメルエールがその違う世界に連れられているわけだ。


「慣れ?」

「普段から気にして見てる物は些細な違いでも気づけるんだよ。友達が髪切ったとか。そういうことの積み重ねってこと」

「か、髪ねえ」


 そんなことに気付いたことはなかった。いや気にしたことがなかった。

 メルエールは友達について無関心であったことに気が付いて愕然とした。

 といっても友達なんてもの最近までいなかったわけだけども。


「ずっと街に住んでるエルフだと森で迷うこともあるんだよ。……よしそれじゃまたすすむよ」


 そしてまたメルエールはうさみの手を握った。

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