戦争初心者うさみ 88
「やったと思った時、隙ができるもの、よッ」
どっかん。
爆音と同時に足が引かれる。
うさみの足に絡まっていたのは、鞭。
それも、馬の尻をたたくやつではなく、教師が持ってるやつでもなく、映画の考古学者の冒険者が持っていたようなやつだ。
いつの間に、と思ったが、赤い女戦士の言うようにカウントダウンの途中で落としてやったー、と思った瞬間の意識の間隙を突かれたということだろう。
そもそも、うさみの危険感知は、即死につながる攻撃以外に対してはあまり有効ではない。
つまり、捕縛については感知しにくいのである。
『野生の魔物にもいるのよ、やたら危険感知能力に長けた個体、がッ! そういうのは命の危険がない物には意外と鈍感なことがあって、ねッ!』
どっかんどっかんでよく聞こえないが、漏れ聞こえる部分と口と表情から何言ってるか推測する。対面して話し込んだおかげだ。多分だいたいあってる。
しかしなるほど、うさみのような臆病な魔物と戦った経験があるということか。
これが実戦経験の差ということだろう。
うさみが仕掛けた不意打ちも読まれていたのだ。
おそらく前回やり合った時点でうさみの特徴、いや弱点を見抜き、準備をして、機会を逃さずにきっちり合わせてきたのだ。
だが。
うさみは足に絡んだ鞭をそのままに、飛び込んでくる赤い女戦士をかわしてから、戦場の中央から離れるように動いた。森に近づく方向だ。
変形のチェーンデスマッチみたいな状況だが、うさみはものともせず移動し、赤い女戦士は捕まえたはずが逆に引っ張られることになった。
「な、んでッ!?」
どっかんときて飛び込んで来たら同じ速度を出して移動することで相対距離を維持する。
どっかんときて引っ張られても逆に引っぱり返してそのまま移動した。
種は簡単だ。
うさみの体重が見た目の何倍も重いのだ。
完全武装の人くらいは誤差と言える程度に。
具体的には秘密である。女の子の体重はトップシークレット。
なぜそんなことになっているかといえば日常的にスキルを上げるために負荷をかけているのである。
高重力と、負荷を日常的に受けるという有名な漫画の修行から発想を得たこの練習法は行動に対する阻害としてスキルを成長させるのにプラスになるのである。
ゴーレム相手に歌って踊るのと同じようなものだ。
さらに言えば見た目以上に重いことがばれないように、普段から宙に浮いて過ごしている。魔力操作の練習と、見た目より足跡が異常に深くて魔物か何かが化けているとか誤解されるのを防ぐためだ。実際にあった。
もちろん今は戦争ということで普通に動ける程度に抑えている。
抑えているということはその分ちょっとおもりが増えても平気ということでもある。
捕まってしまったが、もともと時間稼ぎが目的だ。
ならばむしろ都合がいい。
戦地から引き離してしまえばもっといい。
というわけでうさみは赤い女戦士を森の方へと引っ張って――。
「え?」
――いたところで急激で凶悪で広範な危険を感知して、うさみは思わず振り返った。