異世界転生初心者とうさみ 3
うさみが気が付くと真っ白い世界に立っていた。
「え、あれ?」
初めての展開だ。
千年たって老いて死に、スターティアの街に時間ごと戻るという何度もこなしたルーチンワークが破られた。
だだし、真っ白い世界だけれど異物があった。
椅子に座った女の子だ。
人間なら十五、六。エルフなら三十ちょっとといったくらいか。うさみの姿と比較すると少し年上に見える。うさみは年齢不詳だが、見た目は十歳前後に見えるともっぱらの評判なので。
白髪というには艶やかなので銀髪か。瞳は蒼い。
紺色のワンピースにエプロンドレスを身に着けている。
なぜかパイプ椅子に座っており、手には翠色の板状の何かを持っていた。
「うさみよ、あなたは死んでしまいました」
女の子は手にしたものを見ながらそう言った。
手にしたものっていうか、板である。ノートかクリップボードが、あるいはタブレットか、そんな感じの何か。
「えっと、死んでしまいましたが、この度特例で別の世界へ転生させることになりました。それはあなたが生きていた世界とよく似ていますが違う世界。近く滅びる運命にある世界です。あなたにはこれを救う可能性があるのです。あなたは生き延びることができ世界は救われる。win-winですね。というわけで転生してください」
「結構ですお断りします」
うさみは断った。
「えっ」
女の子は初めて板状の何かから目を離し、うさみを見た。明らかに動揺している。
うさみはジト目で女の子を見ていたので目が合った。
すると女の子は目をそらした。ものすごい勢いで。そらしたまま尋ねてくる。
「な、なんで!?」
「いやなんでっていうか」
「異世界転生を持ち掛ければみんな喜んで世界を救ってくれるのではないのですか?」
うさみは何言ってんのこの人と思った。
せっかくなので口に出した。
「何言ってんのこの人」
「人じゃありませんわたしは神です!」
「へー」
「へー!?」
口をパクパクさせる女の子もとい自称神様。
「っていうかいまさらなの?」
「えっ?」
うさみはジト目で神様を見つめていたので目が合った。
すると神様は目をそらした。なあにこの子ひとみしりか。
「もう何回も死んでるんだけど」
「ほえあ!?」
謎の鳴き声をあげながら神様がうさみを見る。目が合う。すぐにそらされる。なあにこの子照れ屋か。
「なんで!?」
「いやなんでっていうか知らないし何回も繰り返してるし」
「え、あ、ちょっとまって、ええー?」
翠の板を睨みつけながらその上で手をごそごそさせ始める神様。
「なにしてるの?」
「えー、あー、ちょっと確認を――え、なにこれ設定めちゃくちゃじゃん!?」
うさみの方に目を向けずごそごそやっていた神様が騒ぎ出す。
「嘘、ループしてる!? リソースが!? なんで初期設定じゃないのおおおお!?」
うさみには細かいことはよくわからなかったが、この神様がなんかやらかしたことはわかった。
どうやら設定とやらが想定と違ったらしい。
確認ミスといったところだろうか。
何千、何万年分の思いを込めてうさみはツッコんだ。
「初心者か!」
「ひょあ!?」
謎の鳴き声が真っ白い世界をかけたのだった。
おわり